応用情報技術者過去問題 平成21年春期 午後問10

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問10 プロジェクトマネジメント

営業支援システム開発プロジェクトの管理に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。

 製造業のL社は営業力の強化のために,営業支援システムの再構築を行うことにした。新システムでは,携帯電話などのモバイル端末から情報配信サーバ経由で在庫情報,顧客情報などの各種情報の参照・更新が可能になるとともに基幹システムとの連携も可能になる。営業支援システム開発プロジェクト(以下,SFAプロジェクトという)の開発期間は6か月である。L社は携帯電話向けのアプリケーション開発経験が不十分なので,モバイル端末システムの開発は協力会社のE社に発注することにした。要件定義及び総合テストは委任契約,外部設計から結合テストまでは請負契約を締結する。

〔プロジェクト体制〕
 SFAプロジェクトは,図1の体制で実施される。L社システム部のM部長が,プログラムマネージャとしてSFAプロジェクトを含めた複数プロジェクトを管理する。L社システム部のN課長が,SFAプロジェクトのプロジェクトマネージャである。ユーザ部門担当者は,要件定義やレビューに参加する。基幹チーム及び情報配信サーバチームはL社が担当し,各チームにチームリーダーがいる。モバイル端末チームはE社が担当し,チームリーダーはE社のF氏である。
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〔プロジェクト計画〕
 M部長はプロジェクトがスタートする前に,N課長にプロジェクト計画を立案するよう指示した。図2はN課長が作成したプロジェクト計画書(抜粋)である。
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 図2のプロジェクト計画書を見たM部長は,"このプロジェクト計画書ではaが記載されていないので,プロジェクトの作業範囲があいまいになり,プロジェクト開始後の進捗管理にも支障を来すおそれがある"と指摘した。N課長はこの指摘を踏まえてプロジェクト計画書を修正した。

〔E社納品物の品質管理〕
 モバイル端末システムの開発(外部設計から結合テストまで)は請負契約であり,本来納品後でなければ品質確認ができないので,納品後に操作性や使用性(ユーザビリティ)が問題になるおそれがある。また,以前L社の別のプロジェクトにおいて外部設計の最終段階で操作性や使用性に関する要望が多発し,プロジェクト遅延を招いたことがあった。N課長はこうした状況を踏まえ,外部設計の初期の段階で具体的な操作性や使用性をユーザにイメージしてもらい,意見や要望を確認するために,E社に実際に動作するbの作成を依頼し,ユーザにその利用・評価をしてもらうことにした。また,F氏はL社のシステム開発においてテスト計画策定に携わった経験がないので,L社の品質管理基準を満たすテスト計画が策定できず,十分にバグが検出できないおそれがある。N課長はE社と協議して,①E社がL社の品質管理基準を満たすために,結合テスト開始前に実施できる対策を立案することにした

〔プロジェクトの状況〕
 外部設計工程に入ってからいずれのチームも進捗が遅延し始めた。原因を調査したところ,ユーザ部門担当者が多忙を理由に要件定義に十分参加しておらず,今になって要件の追加・変更の要望が頻発し,作業の手戻りが発生していることが分かった。プロジェクト計画書に記載されたシステムの目的の範囲外と思われる追加・変更の要望も多く発生している。N課長はこのままでは納期の遅延を招いたり,予算の超過につながったりするおそれが強いと考え,②ユーザ部門担当者のスケジュールを確保した上で改めて要件定義を実施するとともに,③外部設計以降の各工程を一部並行して実施させるようスケジュールを変更し,期間短縮を図った。図3は当初のスケジュール,図4は変更後のスケジュールである。
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 上記対策前のL社外部設計において,ユーザ部門担当者は,軽微な問合せや仕様があいまいな部分の確認については各開発チームの担当者に直接照会し,回答を得ていた。その内容は必ずしもすべてが記録されてはおらず,プロジェクト内で関係するメンバーに伝わっていないケースもあることが分かった。④N課長はこうした状況に対し,作業効率を落とさず,かつ,情報共有が迅速に行えるよう改善を実施した

設問1

本文中のaに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
a に関する解答群
  • 受注者
  • 成果物
  • 導入効果
  • 要員のスキル

解答入力欄

  • a:

解答例・解答の要点

  • a:

解説

aについて〕
空欄に入る字句がプロジェクト計画書に記載されていない場合、「プロジェクトの作業範囲があいまいになり,プロジェクト開始後の進捗管理にも支障を来すおそれがある」という指摘があります。つまり、選択肢より進捗管理を行う上で必要となる情報を選択します。

進捗管理とは、プロジェクトにおいて、計画と実績にずれが生じていないかを把握し、状況に応じて適切な対応を図ることです。計画と実績のズレを評価する指標として、「進捗率」があります。進捗率を計算するには、定量的にプロジェクトの進捗が分かる情報が必要です。定量的にプロジェクトの進捗が分かるものの1つとして、生産物(プログラム)が挙げられます。期限内に予定していた生産数と実際の生産数から進捗率を求めることができます。また、生産物を製造する上で、設計書(ドキュメント)も必要になります。プログラムやドキュメントなど、プロジェクトの工程で作り出されるものを「成果物」といいます。よって、空欄には「成果物」が入ります。

a=イ:成果物

設問2

〔E社納品物の品質管理〕について,(1),(2)に答えよ。
  • 本文中のbに入れる適切な字句を7字以内で答えよ。
  • 本文中の下線①について,効果が期待できる対策を解答群の中から選び,記号で答えよ。
解答群
  • E社の策定したテスト計画をL社が事前にレビューする。
  • トレーニングのため,F氏をL社側のテストに参加させる。
  • 要員各自の経験を活用し,様々なテストケースを作成する。
  • 臨時のテスト要員を確保しておく。

解答入力欄

    • b:

解答例・解答の要点

    • b:プロトタイプ (6文字)

解説

  • L社では別のプロジェクトにて、操作性や使用性の要望が多く、プロジェクト遅延の原因になった経験があると記載されています。また〔E社納品物の品質管理〕には、「N課長はこうした状況を踏まえ,外部設計の初期の段階で具体的な操作性や使用性をユーザにイメージしてもらい、…E社に実際に動作するbの作成を依頼し,…」と記述されています。

    この例のように、システム開発の早い段階で利用者が実際に動かして要求を確認できるような試作品を作成し、上流工程から操作性や使用性を検証していく開発手法をプロトタイプモデル(またはプロトタイピング)といいます。設計段階から操作性や使用性を検証することで、手戻りが減りプロジェクト遅延を防ぐことができます。プロトタイプモデルで作成する試作品を「プロトタイプ」というので、空欄には「プロトタイプ」が入ります。

    b=プロトタイプ

  • まずは、E社納品物の品質管理におけるリスクを洗い出します。〔E社納品物の品質管理〕より以下の2つがリスクとしてあげられます。
    1. 納品後に操作性や使用性(ユーザビリティ)が問題になるおそれがある。
    2. L社の品質管理基準を満たすテスト計画が策定できず、十分にバグが検出できないおそれがある。
    上記の①については、設問2(1)にてプロトタイプを作成するため、リスク回避策が実行できていると考えられます。よって、この問題では②に対する対応策を考えます。

    ②がリスクとして挙げられる原因としては、〔E社納品物の品質管理〕に「F氏はL社のシステム開発においてテスト計画策定に携わった経験がない」と記述されています。上記の原因を踏まえて選択肢から適切な対策を選択します。
    • 正しい。F氏はL社のテスト計画策定の経験がないため、レビューを通じてL社から助言を受けながらテスト計画を策定することで、L社の品質管理基準を満たすテスト計画が策定でき、かつ、結合テスト時の手戻りを減らすことが期待できます。
    • F氏がL社側のテストに参加することで、L社の品質管理基準を把握することができますが、問題文冒頭には「L社は携帯電話向けのアプリケーション開発経験が不十分」と記述されていることから、L社の別のプロジェクトのテストが本プロジェクトへ展開できるかは不明確であり、この対策は効果が薄いため不適切です。
      また、チームリーダーであるF氏がテストを行う可能性は低いため誤りです。
    • L社の品質管理基準を満たすテスト計画が策定できず、十分にバグが検出できないリスクの原因は、F氏がL社のシステム開発においてテスト計画策定に携わった経験がないことであることがわかっています。
      問題文には「要員各自の経験を活用し」と記述されていますが、要員もL社のテスト計画にかかわったことがない場合は、この対策は効果がないため不適切です。また、一般的にテストケースはテスト計画に基づいて実施されます。
    • 今回のリスクの原因工程は、テスト実施前のテスト計画の段階であり、下線①にも「結合テスト開始前に実施できる対策」と記述されているため誤りです。
    ∴ア:E社の策定したテスト計画をL社が事前にレビューする。

設問3

本文中の下線②を実施するほかに,多く発生する追加・変更の要望に関しては,特定の制約条件を満たす場合だけ対応することになった。〔プロジェクトの状況〕を勘案し,この制約条件を三つ挙げ,それぞれ20字以内で述べよ。

解答入力欄

  • ①:
  • ②:
  • ③:

解答例・解答の要点

  • ①:システムの目的の範囲内であること (16文字)
  • ②:納期遅延を発生させないこと (13文字)
  • ③:予算を超過しないこと (10文字)

解説

〔プロジェクトの状況〕には、現在のプロジェクトは遅延が発生していること、遅延の原因は以下であることが記述されています。
  1. ユーザ部門担当者が多忙を理由に要件定義に十分参加できていない
  2. 今になって要件の追加・変更の要望が頻発し、作業の手戻りが発生している
上記の①については、下線②の対策が取られていることがわかります。また問題文には、「多く発生する追加・変更の要望に関しては,特定の制約条件を満たす場合だけ対応することになった。」と記述されており、この対応が②の対応策になります。

制約条件を付けて対応する理由としては、追加・変更の要望に対応して場合、今後発生するリスクを減らすためです。〔プロジェクトの状況〕には「プロジェクト計画書に記載されたシステムの目的の範囲外と思われる追加・変更の要望も多く発生している。N課長はこのままでは納期の遅延を招いたり,予算の超過につながったりするおそれが強い」と記述されています。上記の内容から洗い出した問題とリスクは以下の3点です。
  • システムの目的の範囲外の追加・要望が発生している
  • 納期の延着が発生するおそれが強い
  • 予算が超過するおそれが強い
これらの事象が起こらなければよいので、それぞれに対応する制約条件として以下の3点が適切な事項となります。
  • システムの目的の範囲内であること
  • 納期遅延を発生させないこと
  • 予算を超過しないこと
∴①:システムの目的の範囲内であること
 ②:納期遅延を発生させないこと
 ③:予算を超過しないこと

設問4

本文中の下線③に伴って発生する問題を回避する際の留意点を解答群の中から選び,記号で答えよ。
解答群
  • 既存要員だけで対応し,コスト増を回避する。
  • 工程完了の承認を主要な機能だけに絞る。
  • 早く完了した機能から順次,次の工程を開始する。
  • 並行する工程間の整合性を確認する作業を追加する。

解答入力欄

解答例・解答の要点

解説

現在のプロジェクトの状況としては、進捗が遅延しています。プロジェクトのスケジュール遅延を取り戻す方法として以下の2点があります。
クラッシング
アクティビティに追加資源を投入して、所要期間を短縮する方法
ファストトラッキング
開始当初の計画では直列に並んでいた作業を同時並行的に行い期間短縮をする方法
下線③には「外部設計以降の各工程を一部並行して実施させるようスケジュールを変更し,期間短縮を図った」と記述されていることから、今回の対処方法はファストトラッキング手法であることがわかります。しかし、ファストトラッキングは本来順番通りになされるべき作業を並行して行うことになるので、順序や前後関係がより複雑になるなどの弊害もあります。よって、ファストトラッキングの適用における弊害を回避する留意点としては「エ」が最も適切といえます。

∴エ:並行する工程間の整合性を確認する作業を追加する。

設問5

本文中の下線④でN課長が実施すべき対策を解答群の中から選び,記号で答えよ。
解答群
  • N課長が定期的に各担当者にユーザ部門担当者からの照会の有無を確認する。
  • グループウェアを利用し,ユーザ部門からの照会と回答の内容を記録させる。
  • ユーザ部門担当者からの照会事項の受付回答窓口をN課長に一本化する。
  • ユーザ部門担当者からの照会事項を週次でまとめて受け付けるようにする。

解答入力欄

解答例・解答の要点

解説

まず、下線④の改善策が実施される背景として、ユーザ部門からの軽微な問合せや仕様があいまいな部分について「プロジェクト内で関係するメンバーに伝わっていないケースがあった」と記述されています。この原因として、ユーザ部門担当者との各メンバーのやり取りの内容が必ずしもすべて記録されていなかったことが説明されています。N課長が実施した改善策はこうした課題に対し、作業効率を落とさずに、かつ、迅速に情報共有できるものである必要があるので、この条件に合致する対応策を選ばなければなりません。
  • N課長の作業負担が増え、作業効率が落ちるため誤りです。
  • 正しい。グループウェアを利用することで情報共有が迅速に行うことができ、メンバー全員が情報共有するため時間や場所を確保しなくて済むため作業負担も増えません。
    また、ユーザ部門からの照会と回答の内容を記録するように決めることにより、記録漏れを防ぐことができます。
  • N課長の作業負担が増え、作業効率が落ちるため誤りです。
  • 迅速な情報共有という面で不十分で、週次の情報共有では手戻りが発生してしまうおそれを回避できないので誤りです。
∴イ:グループウェアを利用し,ユーザ部門からの照会と回答の内容を記録させる。
問10成績

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