応用情報技術者過去問題 平成28年春期 午後問4

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問4 システムアーキテクチャ

冗長構成をもつネットワークに関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

 S社は商社であり,図1のような業務ネットワークを5年前に構築し,現在も利用している。
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 業務サーバで実行する処理は二つある。一つは,社内LANに接続しているPCから,L3SWとL2SWを経由して送られる在庫問合せや発注といった処理(以下,対話処理という)であり,業務サーバとL2SWの間のトラフィックは3台の業務サーバの間でほぼ均等になっている。もう一つは,3台の業務サーバの間でL2SWを経由して通信し実行する日次のバッチ処理(以下,バッチ処理という)である。バッチ処理中は対話処理を禁止している。
 経路の障害でこれらの処理を滞らせないよう,①業務ネットワークでは,スイッチ類を稼働系及び待機系の冗長構成とし,稼働系のスイッチ(L3SW1,L2SW1)に障害が発生した場合に,待機系のスイッチ(L3SW2,L2SW2)を経由して対話処理やバッチ処理を行えるようにしている。各スイッチのスループットは,現行の各処理が必要とする通信量に見合っている。
 現在,営業日の夜間に実行するバッチ処理に8.0時間を要している。バッチ処理が長引くと対話処理に使える時間が短くなるので,これ以上バッチ処理に要する時間を延ばせない。
 また,対話処理についても,在庫問合せや発注の件数が5年前に比べて増え,営業日のピーク時には社内LANと業務ネットワークの間の通信量は0.3Gビット/秒に達している。

〔業務の改善〕
 S社は,業務の改善を目的として,次の(1),(2)に取り組むことにした。
  • 商品や顧客に関して,より詳細なデータを取り扱えるようにする。
  • 取り扱う商品の品目数や数量を増やせるようにする。
 (1),(2)を行うと,業務サーバで取り扱うデータ項目数が増加して1レコード当たりのデータサイズが拡大するだけでなく,処理対象のレコード数も増加する。その結果,処理データ量は次の5年間で現行の10倍に増え,バッチ処理に掛かる時間,及び対話処理に必要となる社内LANと業務ネットワークの間の通信量もそれぞれ10倍に増えると予測した。
 S社は,②バッチ処理が次の5年間にわたって現在と同じ時間内に完了することを目標として,新業務ネットワークを構築するプロジェクトを立ち上げ,業務ネットワークの管理者であるT君が担当することになった。

〔業務サーバの更新検討〕
 新サーバの候補を選定した。諸元(抜粋)を表1に示す。
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 新サーバの実機を使ったバッチ処理の検証テストを行う前に,次の(1)〜(4)が成り立つものと仮定して,バッチ処理時間を机上で計算した。
  • 新サーバのCPUの1コア当たりの処理速度は,現行サーバの2倍速い。さらに,内蔵するコア数に比例して速くなる。
  • 新サーバのメモリの読み書き速度は,現行サーバの2倍速い。読み書き速度は,メモリサイズの違いによらない。
  • サーバにおけるバッチ処理のスループットは,CPUの処理速度とメモリの読み書き速度のそれぞれの増加に比例して増加する。
  • バッチ処理時間は,バッチ処理のスループットの増加に反比例して短くなる。現行サーバで8.0時間を要していたバッチ処理時間は,机上計算の結果,新サーバでは短縮されてa時間になる。
〔業務サーバの更新に伴うネットワークの見直し〕
 バッチ処理において,新サーバの性能を最大限発揮させるためには,サーバだけでなくネットワークも見直す必要がある。バッチ処理における新サーバ間の通信に必要な帯域を最大1.6Gビット/秒と試算した。
 現行のL3SW,L2SW及び新サーバは,複数のリンクを論理的に束ねて1本のリンクとして扱うことができるリンクアグリゲーション機能(以下,LAという)を備えている。例えばLAを利用して2本のリンクで装置間を接続すると,その帯域は理論上2倍になる。T君は,図2のア〜クのように,L3SWとL2SWの間,及びL2SWと新サーバの間を,LAを利用して1Gビット/秒のリンク2本で接続することを考えた。
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 T君は,新業務ネットワークの構成について,システムアーキテクトであるU氏に相談した結果,次の@,Aのコメントを受けた。
  1. 図2中の新業務ネットワークも,スイッチ類は稼働系と待機系の冗長構成であるが,ア〜クのうち,営業日のピーク時に帯域不足となるリンクがある。
  2. 現行のL2SWについて確認しておくべき性能要件がある。確認の結果次第では,L2SWを更新する必要がある。
 T君は,これらのコメントについて検討を加え,本プロジェクトを成功裏に完了させた。

設問1

本文中の下線①について,(1),(2)に答えよ。ここで,L3SW及びL2SWの稼働率はともにα(0<α<1)とし,L3SWとL2SW以外の機器の稼働率は1とする。
  • L3SW,L2SWが1台ずつで冗長性がない構成の稼働率を答えよ。
  • 図1のように,L3SW,L2SWが2系統に構成された業務ネットワークの稼働率を答えよ。
(※正誤判定の都合上、指数部を"^"で入力してください。Rの2乗→R^2)

解答入力欄

解答例・解答の要点

    • α2
    • 1−(1−α2)2

解説

  • 本問は冗長構成によって信頼性を高めたネットワークシステムの構築・運用の問題です。

    この設問はシステム全体の稼働率を求める問題ですが、L3SWとL2SW以外の装置は稼働率が1(すなわち故障しない)という条件であるため、全体の稼働率には影響しません。L3SWとL2SWを1台ずつにして冗長性をなくすと、下図のような構成になります。
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    稼働率は、全運用時間のうちシステムが正常動作している時間の割合と考えることができます。稼働率Rの2つの装置が直列接続されたシステムの全体稼働率は、確率の積の法則を利用して「R×R=R2」と表すことができます。

    L3SWとL2SW以外を無視して考えると、システム全体の稼働率はL3SWの稼働率αとL2SWの稼働率αの積である「α2」です。

    ∴α2

  • 下図のように、L3SWとL2SWを二重化した場合、[L3SW1-L2SW1]を直列にしたペア(ペアA)と[L3SW2-L2SW2]を直列にしたペア(ペアB)のうち、少なくとも一方が動作していれば問題ありません。よって、システム全体を見ると2つのペアの並列構成になっていると考えることができます。
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    稼働率Rの装置が並列接続されたシステムの全体稼働率は、「1−(1−R)(1−R)=1−(1−R)2」と表すことができます。各ペアの稼働率はα2なので、2つのペアを並列構成にしたときの稼働率は、Rの部分にα2を代入した「1−(1−α2)2」です。

    ∴1−(1−α2)2

設問2

〔業務サーバの更新検討〕について,(1),(2)に答えよ。
  • 本文中のaに入れる適切な数値を答えよ。答えは,小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めよ。
  • 新サーバの諸元は本文中の下線②の目標を満たしているか。満たしていない場合は1CPU当たりのコア数を最少幾つにすればよいか,2のべき乗数(4,8,16,32,…)で答えよ。満たしている場合は表1と同じ"2"と答えよ。

解答入力欄

    • a:

解答例・解答の要点

    • a:1.0
    • 4

解説

  • aについて〕
    現行サーバから新サーバに置き換えることで、バッチ処理時間がどれだけ短くなるかを求める問題です。表1と〔業務サーバの更新検討〕中の(1)〜(4)を読み解いて計算することができます。

    (4)に「バッチ処理時間は,バッチ処理のスループットの増加に反比例して短くなる。」とあることから、バッチ処理のスループットを求めればよいことがわかります。また(3)に「バッチ処理のスループットは,CPUの処理速度とメモリの読み書き速度のそれぞれの増加に比例して増加する。」とあることから、CPU処理速度とメモリの読み書き速度がどれだけ増加するかを求めれば、バッチ処理のスループットが求めることが可能です。

    表1から、サーバのCPU数は現行サーバも新サーバも1CPUで変わりませんが、CPUのコア数が1コア/CPUから2コア/CPUに増えています。そして(1)に「新サーバのCPUの1コア当たりの処理速度は,現行サーバの2倍速い」「内蔵するコア数に比例して速くなる」という記載があるため、CPUコアが2倍かつ1コア当たりの処理速度が2倍になると、新サーバのCPUの処理速度は現行サーバに比べて「2×2=4倍」になることがわかります。
    さらに(2)から、新サーバのメモリの読み書き速度は現行サーバに比べて2倍になることがわかります(メモリサイズの変化は読み書き速度に影響しないと書かれているため、計算結果に影響しません)。

    4倍の速度になったCPUに2倍のアクセス速度が加われば、新サーバのバッチ処理のスループットは現行サーバに比べて「4×2=8倍」になります。現行サーバのバッチ処理時間は8時間であり、バッチ処理時間はスループットの増加量に反比例(1/8)するので、新サーバのバッチ処理時間は以下のように計算できます。

     8.0時間×1/8=1.0時間

    a=1.0

  • 〔業務の改善〕の中で「処理データ量は次の5年間で現行の10倍に増え…」とあります。新サーバのバッチ処理時間は現行サーバの1/8ですが、処理データ量が10倍になったときを想定すると「8時間×10倍×1/8=10時間」とバッチ処理時間が8時間を超えてしまいます。CPUのコア数を4に増やせば、CPUの処理速度が8倍になり、新サーバのバッチ処理時間は「8.0時間×10倍×1/16=5.0時間」に収まります。したがって、1CPU当たりのコア数は最少でも4つとしなければなりません。

    ∴4

    【参考】
    8時間×10倍÷(コア数×2倍×2倍)≦8時間 を解くと、

     80÷(4×コア数)≦8
     80≦32×コア数
     2.5≦コア数

    となり、2.5個以上かつ2のべき乗である4個が正解とわかります。

設問3

本文中のU氏のコメント@について,(1),(2)に答えよ。
  • どのリンクが帯域不足となるか。ア〜クの記号で全て答えよ。
  • LAを利用する場合,1Gビット/秒のリンクを最少何本束ねればよいか。数字で答えよ。

解答入力欄

解答例・解答の要点

    • ア,イ
    • 3

解説

図2にあるア〜クのリンクは全て1Gビット/秒の回線をリンクアグリゲーションによって2本束ねているため、帯域は2Gビット/秒となっています。

問題文中に「営業日のピーク時には社内LANと業務ネットワークの間の通信量は0.3Gビット/秒に達している。」という記述があり、さらに〔業務の改善〕の中で「対話処理に必要となる社内LANと業務ネットワークの間の通信量もそれぞれ10倍に増えると予測した。」という情報があることから、5年後には社内LANと業務ネットワークの間の通信量は3.0Gビット/秒に達していると推測できます。

図2にあるアとイのリンクは社内LANと業務ネットワーク間の通信が全て通過するため、2Gビット/秒の帯域では足りません。そのため束ねる回線の本数を少なくとも3本に増やし、帯域を3Gビット/秒以上にする必要があります。なお、残りのリンク(ウ〜ク)については、問題文中に「業務サーバとL2SWの間のトラフィックは3台の業務サーバの間でほぼ均等になっている。」という記載があることから、通信トラフィック(通信量)が均等に分散して1Gビット/秒に収まると予想されるので、回線を増やす必要はありません。

∴(1) ア、イ
 (2) 3
リンクアグリゲーション
複数の物理的な回線を仮想的に束ね、論理的な1つの回線として取り扱う技術で、IEEE 802.3adとして標準化されている。
100Mbpsの物理回線を2本束ねれば200Mbpsの通信帯域幅というように、物理的回線の帯域を合計した量の仮想帯域を使用することができるようになるため、高速回線を使用してなくても通信帯域を拡大することが可能。また一つの回線に障害が発生しても他の回線で通信を続けることができるため耐障害性にも優れる。

設問4

本文中のU氏のコメントAについて,確認しておくべき性能要件を20字以内で答えよ。

解答入力欄

解答例・解答の要点

  • スループットが通信量に見合うこと (16文字)

解説

問題文に「各スイッチのスループットは,現行の各処理が必要とする通信量に見合っている。」という記載がありますが、処理データ量や通信量が増加した後にスイッチのスループットが十分であるかを検証していません。バッチ処理は3台の業務サーバの間でL2SWを経由して通信し実行するので、たとえ通信回線の帯域が充足していても、スイッチの処理能力が不足しているとボトルネックになり、バッチ処理が既定時間内に終了しなくなってしまうことが考えられます。

したがって、L2SWについて確認しておくべき性能要件は「スループットが通信量に見合うこと」となります。

∴スループットが通信量に見合うこと
問4成績

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