令和3年秋期試験午後問題 問10

問10 サービスマネジメント

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変更管理に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
 B社は,中堅の物流企業である。B社のシステム部は,物流管理システムを開発・保守・運用している。物流管理システムは,物流管理サービスとして,B社のサービス利用部署に提供されている。物流管理サービスは,週1回設けているサービス停止時間帯以外であれば,休日,夜間も利用可能である。近年,事業の拡大に伴い,物流管理サービスへの変更要求(以下,RFCという)の件数が増加し,変更管理に関する問題が顕在化してきた。

〔変更管理の現状〕
 システム部では,RFCに基づいて,物流管理サービスの変更を行っている。変更を適用するリリースを稼働環境に展開する作業(以下,展開作業という)は,サービス停止時間帯に行われる。RFCは,事業環境の変化などに対応する適応保守と不具合の修正などの是正保守に大別される。適応保守には,売上げや利益を改善するための修正や法規制対応などが含まれる。変更の費用は,変更管理部署であるシステム部が一旦負担し,その費用をB社の全部署に人数割りで配賦している。
 現在顕在化している変更管理に関する主な問題点は,次のとおりである。
  • RFCの依頼者は,決められた書式の文書を電子メールに添付してシステム部の変更管理担当に提出する。RFCの依頼者は,依頼部署の上司を写し受信者として,電子メールで提出すればよいので,依頼者の個人的な見解に基づくRFCもある。
  • 適応保守のうち,法規制対応のRFCは,RFCの依頼者が法規制の施行に基づいて設定した実施希望日に変更が実施されるが,法規制対応以外のRFCは,RFCを受け付けた順に対応しており,システム部の要員の稼働状況によって変更実施日が決められる。RFC件数の増加によって,システム部の要員はひっ迫しており,重要なRFCの変更実施日がRFCの実施希望日を過ぎてしまう場合があって,依頼者からクレームが発生している。
  • 展開作業の計画が不十分であったり,展開作業中に障害が発生したりするなどの要因で,予定時間内に展開作業が完了しない場合がある。また,展開作業が予定時間に完了しない場合を想定しておらず,終了予定時刻を超過しても展開作業を継続し,サービス開始を遅延させてしまうことがある。
  • 経営層からは,変更管理について次の指示が出ているが,対応できていない。
    1. 変更決定者を定め,売上げや利益を改善するための修正は,ROIを考慮してRFCの承認を行うこと。
    2. 変更の費用は,変更の実施によって利益を受ける受益者が負担すること。その場合,関係する部署でRFCを協議して,費用の取扱いを決定すること。
    3. 変更実施後の実現効果を利害関係者と確認し,必要に応じて利害関係者と合意した処置をとること。

〔変更管理プロセスの手順案の作成〕
 システム部のC部長は,変更管理の問題点を解決するため,システムの保守・運用の管理を担当しているD課長に,変更管理の改善に着手するよう指示した。D課長は,表1に示す変更管理プロセスの手順案を作成した。
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〔C部長の指摘〕
 D課長は,C部長に変更管理プロセスの手順案を説明したところ,次の指摘を受けた。
  • 適応保守の中には,②ROIと実現可能性だけで判断すべきではないRFCもあるので,RFCの承認及び差戻しの意思決定には,この点も考慮すること。
  • 経営層からの指示に基づき,③変更の費用の費用負担方法を変更すること。これに伴い,CAB要員として必ずbを参加させること。
  • 変更管理プロセスの手順案では,変更決定者は自身が務めることになっているが,RFC件数が増加傾向にあるので,迅速な意思決定ができる仕組みを構築し,自身は優先度の高いRFCの意思決定に専念できるようにすること。
  • 現状,"展開作業がサービス停止時間帯内に完了しない事例"が発生している。変更管理プロセスの手順案のaでは,サービス開始を遅延させないための④展開作業時に実施する可能性のある作業を計画すること。
  • 変更を実施した後に,⑤変更実施後のレビュー(以下,PIRという)を行い,変更の有効性をレビューすること。PIRの実施時期については,RFCの承認の際に決定すること。
  • 現状の変更管理の問題点が解決されたかを確認するために,変更管理プロセスを評価するKPIを設定すること。KPIは,依頼者からのクレームが減ったことが確認できるものとすること。

〔変更管理プロセスの手順案の修正〕
 D課長は,C部長の指摘に漏れなく対応するように,変更管理プロセスの手順案を修正した。そのうち,迅速な意思決定に関する修正,及びKPIの設定は次のとおりである。
  • 迅速な意思決定については,表2に示す優先度が"低"のRFCの承認及び差戻しの決定は,cとする。
  • 変更管理プロセスを評価するKPIとして,次のa~cを設定する。
    1. 失敗した展開作業数の削減率
    2. 変更に起因するインシデント数の削減率
    3. 実施希望日どおりに変更が実施できたRFCの割合の増加率

設問1

〔変更管理プロセスの手順案の作成〕について,(1),(2)に答えよ。
  • 表1中の下線①の狙いを,25字以内で答えよ。
  • 表1中のaに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
a に関する解答群
  • エスカレーションフロー
  • サービスカタログ
  • トレーニング資料
  • 変更スケジュール

解答例・解答の要点

  • 依頼者の個人的な見解に基づくRFCの撲滅 (20文字)
  • a:

解説

  • 下線①はRFCの提出に関する手順であり、「自部署の部長の承認を得た後,変更管理マネージャに提出する」というものです。

    〔変更管理の現状〕(1)に「RFCの依頼者は,依頼部署の上司を写し受信者として,電子メールで提出すればよいので,依頼者の個人的な見解に基づくRFCもある」と記載されているように、現状では上長の承認を得ずに変更依頼者の判断でRFCを提出できる仕組みになっているために、不必要なRFCが提出され、変更管理の負担が増大している様子が読み取れます。こうした、言ってみれば"非公式"なRFCが変更マネージャの元に届くことを防ぐため、RFCの提出には部長の承認を必要とする仕組みに変更したと考えられます。

    以上より、本施策の狙いは「依頼者の個人的な見解に基づくRFCをなくすこと」であると判断できます。

    ∴依頼者の個人的な見解に基づくRFCの撲滅

  • aについて〕
    空欄aを含む一文を確認すると「システム部は,RFCの優先度と実施希望日を考慮して,RFCの承認に必要となるaを作成する」と記述されています。これより、「RFCの優先度」と「実施希望日」が関係する字句を選択肢から選べば良いことがわかります。選択肢の中で上記要件を満たすのは「エ:変更スケジュール」だけです。

    サービスを新たに導入したり、サービスに大きな変更を加えたりする際には、変更要求に加えて変更の概要を説明する「変更提案」という文書が必要となります。変更提案には、変更の必要性、得られる事業上の成果、費用対効果、変更スケジュール等が記載されます。

    なお、他の選択肢は以下の理由で不適切です。
    • エスカレーションフローは、インシデントが発生してから上長や問題解決を図る部署に指示を仰ぐフローを指す単語です。
    • サービスカタログは、現在提供中のサービス及び承認済で今後導入予定のサービスを一覧化したものでです。
    • トレーニングに使用する資料の作成は、RFCの優先度や実施希望日とは関係ないので不適切です。
    a=エ:変更スケジュール

設問2

〔C部長の指摘〕について,(1)~(4)に答えよ。
  • 本文中の下線②について,該当するRFCを本文中の字句を用いて,10字以内で答えよ。
  • 本文中の下線③の費用負担方法について,現在の方法をどのように変更するのか。変更前と変更後の方法を含めて,40字以内で述べよ。また,本文中のbに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
  • 本文中の下線④の内容を,20字以内で答えよ。
  • 本文中の下線⑤で実施するPIRの目的として,経営層からの指示を踏まえ,最も適切な内容を解答群の中から選び,記号で答えよ。
b に関する解答群
  • インフラ構築担当者
  • サービスデスク要員
  • 変更の実施によって利益を受ける部署の代表者
  • 変更の内容に応じた専門技術をもつシステム部員
(4) に関する解答群
  • 変更による実現効果を利害関係者と確認するため
  • 変更の作業を通じて要員の育成が行われたかを確認するため
  • 変更の実施に伴うインシデントが発生していないかを確認するため
  • 変更の詳細計画どおりに変更の実施が行われたかを確認するため

解答例・解答の要点

  • 法規制対応のRFC (9文字)
  • 費用負担方法:全部署への人数割り配賦を,利益を受ける受益者負担に変更する (29文字)
    b:
  • 切り戻し計画の作成 (9文字)

解説

  • 下線②を含む一文を確認すると「適応保守の中には,ROIと実現可能性だけで判断すべきではないRFCもあるので,…」と記述されています。これは、表1のRFCの承認の手順にある「RFCの承認及び差戻しの判断基準には,ROIと実現可能性を考慮する」に対する問題提起となっています。
    〔変更管理の現状〕の冒頭部で「適応保守には,売上げや利益を改善するための修正や法規制対応などが含まれる」と記載されているように、適応保守には2種類があります。このうち法規制に対応するための変更は、ROIや実現可能性にかかわらず、法令遵守の観点から期日までに必ず実施する必要があります。法規制対応のRFCがROIや実現可能性で判断されてしまうのは不適切であるため、C部長はこの点を指摘したと判断できます。したがって、C部長の指摘に該当するRFCは「法規制対応のRFC」です。

    ∴法規制対応のRFC

  • 〔費用負担方法について〕
    変更の費用負担についての現状は「変更管理部署であるシステム部が一旦負担し,その費用をB社の全部署に人数割りで配賦している」とあるように、変更に関係のない部署も変更費用を負担する不公平な仕組みでした。下線③の前文に「経営層からの指示に基づき」とあるので、〔変更管理の現状〕(4)のbを見ると「変更の費用は,変更の実施によって利益を受ける受益者が負担すること」という指示を経営者から受けていることがわかります。これが変更後の仕組みです。

    変更前と変更後の方法を整理すると以下のようになります。
    • 変更前 … 全部署に人数割りで配賦
    • 変更後 … 変更による受益者が負担
    これをまとめると「全部署に人数割りで配賦していたのを、変更による受益者が負担するように変更する」旨の解答となります。

    ∴全部署への人数割り配賦を,利益を受ける受益者負担に変更する

    bについて〕
    空欄bを含む一文を確認すると「経営層からの指示に基づき,変更の費用の費用負担方法を変更すること。これに伴い,CAB要員として必ずbを参加させること。」と記述されています。既に確認した通り、費用負担方法の変更により、変更の費用は「利益を受ける受益者」が負担することになります。この仕組みに変更した場合、「関係する部署でRFCを協議して,費用の取扱いを決定すること」という経営者からの指示があるので、費用負担に関係する部署をCABに参加させる必要があります。解答群の中でこの条件に合致する人物は「ウ:変更の実施によって利益を受ける部署の代表者」です。

    b=ウ:変更の実施によって利益を受ける部署の代表者

  • 下線④を含む一文を確認すると「サービス開始を遅延させないための展開作業時に実施する可能性のある作業を計画すること」と記載されています。サービス開始の遅延については〔変更管理の現状〕(3)に「展開作業が予定時間に完了しない場合を想定しておらず,終了予定時刻を超過しても展開作業を継続し,サービス開始を遅延させてしまうことがある」という問題が生じていることがわかります。C部長は上記問題を解決する作業を変更管理プロセスの手順に含めるように指摘しています。

    一般的に、展開作業(=本番への変更適用作業)はその過程で想定外の作業やトラブルが発生する可能性があり、変更が失敗したり変更適用が時間内に完了しないであろうときは、切り戻し(=変更前の状態に戻すこと)作業を実施します。切り戻し作業を実施すれば、変更作業中にトラブルがあった場合でもサービス開始を遅延させることはありません。失敗したときに適切に切り戻し作業を実施するためには、事前に、変更前の状態に回復させるための対処方法を計画としてまとめておく必要があります。

    したがって、「展開作業時に実施する可能性のある作業」とは切り戻し作業、そのための計画なので「切り戻し計画の作成」が適切な解答となります。

    ITILでは修復計画という用語で定義されているので、こちらでもOKでしょう。

    ∴切り戻し計画の作成

  • 下線⑤を含む一文を確認すると「変更実施後のレビュー(以下,PIRという)を行い,変更の有効性をレビューすること」と記述されています。また、経営層からの指示について確認すると、〔変更管理の現状〕(4)のcに「変更実施後の実現効果を利害関係者と確認し,必要に応じて利害関係者と合意した処置をとること」と記述されています。これらの記述がそのまま回答根拠になります。すなわち、変更実施後のレビュー(PIR:Post Implementation Review)の目的は、変更実施後の実現効果を利害関係者と確認することにあると言えます。解答群のうちこれに該当する記述は「ア」です。

    ∴ア:変更による実現効果を利害関係者と確認するため

設問3

〔変更管理プロセスの手順案の修正〕について,本文中のcに入れる適切な修正内容を30字以内で答えよ。

解答例・解答の要点

c:変更管理マネージャに権限委譲すること (18文字)

解説

cについて〕
空欄cを含む一文を確認すると「迅速な意思決定については,表2に示す優先度が"低"のRFCの承認及び差戻しの決定は,cとする」と記述されています。また、"迅速な意思決定"について確認すると、〔C部長の指摘〕(3)に「変更管理プロセスの手順案では,変更決定者は自身が務めることになっているが,RFC件数が増加傾向にあるので,迅速な意思決定ができる仕組みを構築し,自身は優先度の高いRFCの意思決定に専念できるようにすること」と記述されています。上記記述内の"自身"とはC部長を指すので「表1の変更管理プロセスの手順案ではC部長の業務範囲が広すぎることで、優先度の高いRFCの意思決定に専念できない」ということが指摘の趣旨です。これを解消するには、C部長の負担を減らす策を講じる必要があります。

変更管理プロセスにおいては、必ずしもすべてのRFCについてCABを招集する必要はなく、軽微な変更や低リスクの変更については変更マネージャが単独で変更を許可することも可能です。これらのことから、優先度が"低"のRFCについては変更管理マネージャであるD課長が承認及び差戻しを行えるようにして、C部長の業務範囲対象外とすれば良いと判断できます。

よって、正解は「権限委譲により、変更管理マネージャを変更決定者とすること」などの解答が適切となります。

c=変更管理マネージャに権限委譲すること
模範解答

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