令和5年秋期試験午後問題 問4

問4 システムアーキテクチャ

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システム統合の方式設計に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
 C社とD社は中堅の家具製造販売業者である。市場シェアの拡大と利益率の向上を図るために,両社は合併することになった。存続会社はC社とするものの,対等な立場での合併である。合併に伴う基幹システムの統合は,段階的に進める方針である。将来的には基幹システムを全面的に刷新して業務の統合を図っていく構想ではあるが,より早期に合併の効果を出すために,両社の既存システムを極力活用して業務への影響を必要最小限に抑えることにした。

〔合併前のC社の基幹システム〕
 C社は全国のショッピングセンターを顧客とする販売網を構築しており,安価な価格帯の家具を量産・販売している。生産方式は見込み生産方式である。生産した商品は在庫として倉庫に入庫する。受注は,顧客のシステムと連携したEDIを用いて,日次で処理している。受注した商品は,在庫システムで引き当てた上で,配送システムが配送伝票を作成し,配送業者に配送を委託する。月初めに,顧客のシステムと連携したEDIで,前月納品分の代金を請求している。
 合併前のC社の基幹システム(抜粋)を表1に示す。
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〔合併前のD社の基幹システム〕
 D社は大手百貨店やハウスメーカーのインテリア展示場にショールームを兼ねた販売店舗を設けており,個々の顧客のニーズに合ったセミオーダーメイドの家具を製造・販売している。生産方式は受注に基づく個別生産方式であり,商品の在庫はもたない。顧客の要望に基づいて家具の価格を見積もった上で,見積内容の合意後に電子メールやファックスで注文を受け付け,従業員が端末で受注情報を入力する。受注した商品を生産後,販売システムを用いて請求書を作成し,商品に同梱する。また,配送システムを用いて配送伝票を作成し,配送業者に配送を委託する。
 合併前のD社の基幹システム(抜粋)を表2に示す。
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〔合併後のシステムの方針〕
 直近のシステム統合に向けて,次の方針を策定した。
  • 重複するシステムのうち,販売システム,購買システム,配送システム及び会計システムは,両社どちらかのシステムを廃止し,もう一方のシステムを継続利用する。
  • 両社の生産方式は合併後も変更しないので,両社の生産システムを存続させた上で,極力修正を加えずに継続利用する。
  • 在庫システムは,C社のシステムを存続させた上で,極力修正を加えずに継続利用する。
  • 今後の保守の容易性やコストを考慮し,汎用機を用いたホスト系システムは廃止する。
  • ①廃止するシステムの固有の機能については,処理の仕様を変更せず,継続利用するシステムに移植する
  • 両社のシステム間で新たな連携が必要となる場合は,インタフェースを新たに開発する。
  • マスタデータについては,継続利用するシステムで用いているコード体系に統一する。重複するデータについては,重複を除いた上で,継続利用するシステム側のマスタへ集約する。
〔合併後のシステムアーキテクチャ〕
 合併後のシステムの方針に従ってシステムアーキテクチャを整理した。合併後のシステム間連携(一部省略)を図1に,新たなシステム間連携の一覧を表3に示す。
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〔合併後のシステムアーキテクチャのレビュー〕
 合併後のシステムアーキテクチャについて,両社の有識者を集めてレビューを実施したところ,次の指摘事項が挙がった。
  • ②C社の会計システムがSaaSを用いていることから,インタフェースがD社の各システムからデータを受け取り得る仕様を備えていることをあらかじめ調査すること
 指摘事項に対応して,問題がないことを確認し,方式設計を完了した。

設問1

〔合併後のシステムアーキテクチャ〕について答えよ。
  • 図1及び表3中のacに入れる適切な字句を答えよ。
  • 表3中のdgに入れる適切な字句を答えよ。

解答例・解答の要点

  • a:販売システム
    b:生産システム
    c:会計システム
  • d:出荷情報
    e:週次
    f:売上情報
    g:月次

解説

本問では、問題文中に既存システムの詳細な機能やシステム間連携の複雑さなどの記載がなく、業務への影響を抑えるためにどのシステムを利用/廃止するのかを決定する詳しい背景を知ることはできません。しかし、図1及び表3の内容と〔合併後のシステムの方針〕を丁寧に読み取ることで、どちらのどのシステムを利用/廃止するのかがわかるようになっています。

設問を解く前提として〔合併後のシステムの方針〕を踏まえて、廃止するシステム、継続利用するシステムを分けます。販売、購買、配送、会計の各システムは、どちらか一方のシステムのみが残ります。
生産システム
両社のシステムを継続利用する
在庫システム
C社システムを継続利用する
購買システム
表3の記載より、D社システムを継続利用する
配送システム
表3の記載より、C社システムを継続利用する
販売システム
「汎用機を用いたホスト系システムは廃止する」ため、ホスト系のC社システムを廃止し、オープン系のD社システムを継続利用する
会計システム
「汎用機を用いたホスト系システムは廃止する」ため、ホスト系のD社システムを廃止し、SaaSのC社システムを継続利用する
合併後に稼働するシステムは、①C社生産システム、②D社生産システム、③C社在庫システム、④D社購買システム、⑤C社配送システム、⑥D社販売システム、⑦C社会計システムの7つで、それぞれ図1のシステムと1対1で対応します。
  • 空欄には7つのシステムのうち、図1に表記がない生産システム、販売システム、会計システムがそれぞれ当てはまります。また、空欄aとbはD社システムの側に位置しているのでD社のシステム、空欄cはC社システムの側に位置しているのでC社のシステムです。これを踏まえると、空欄aとbには「D社生産システム」または「D社販売システム」、空欄cには「C社会計システム」が当てはまることが予想できます。

    合併後は既存システムを極力活用するので、合併前のそれぞれの基幹システムの機能及びシステム間連携は合併後のシステムにも引き継がれると考えられます。表1及び表2の"システム間連携"を見ると、生産、販売、会計の3つのシステムの"連携先システム"は以下のとおりです。
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    以上の関係性より、まず最初に確定できるのは空欄cです。図1を見ると、空欄cのシステムは連携先システムを有していないため、「会計システム」が妥当することがわかります。空欄aは、生産システムを連携先システムとしていることから「販売システム」、空欄bは、配送及び購買システムを連携先システムとしていることから「生産システム」であると判断できます。

    a=販売システム
     b=生産システム
     c=会計システム

  • 空欄a~cのシステムを表3に書き入れると次のようになります。
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    dについて〕
    連携元がC社配送システム、連携先がD社販売システムとなっています。表1及び表2の配送システムのシステム間連携欄を見ると、販売システムに連携する情報は「出荷情報」であるとわかります。
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    eについて〕
    連携元がD社生産システム、連携先がC社会計システムとなっています。表2のD社生産システムのシステム間連携欄を見ると、会計システムとの連携処理は週次で行われているので、合併後のC社会計システムを用いた場合の連携頻度も同様に「週次」となります。
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    fについて〕
    連携元がD社販売システム、連携先がC社会計システムとなっています。表1及び表2の販売システムのシステム間連携欄を見ると、会計システムに連携する情報は「売上情報」であるとわかります。
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    gについて〕
    連携元がD社購買システム、連携先がC社会計システムとなっています。表1及び表2の購買システムのシステム間連携欄を見ると、会計システムとの連携処理はC社・D社ともに月次で行われているため、合併後の連携頻度も同様に「月次」となります。
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    d=出荷情報
     e=週次
     f=売上情報
     g=月次

設問2

本文中の下線①について答えよ。
  • 移植先は,どちらの会社のどのシステムか。会社名とシステム名を答えよ。
  • 移植する機能を,表1及び表2の主な機能の列に記載されている用語を用いて全て答えよ。

解答例・解答の要点

  • 会社名:D社
    システム名:販売システム
  • 受注(EDI),販売実績管理(月次),請求(EDI)

解説

  • 重複しているシステムのうち廃止されるのは、C社の販売システムと購買システム、D社の配送システムと会計システムです。表1と表2を比較すると、両社の購買システム、配送システム、会計システムについては主な機能が同一ですが、販売システムでは"売上計上"のみが共通機能であり、それ以外は各システムに固有の機能となっています。継続利用されるのはD社販売システムのほうなので、C社販売システムに固有の機能をD社販売システムに移植することとなります。

    ∴会社名=D社、システム名=販売システム

  • 移植すべき機能は、廃止するC社販売システムに固有の機能です。表1及び表2の比較より、C社販売システムにあってD社販売システムにない機能、すなわち「受注(EDI)」「販売実績管理(月次)」「請求(EDI)」の3つの機能が妥当します。

    ∴受注(EDI),販売実績管理(月次),請求(EDI)

設問3

本文中の下線②の指摘事項が挙がった適切な理由を,オンプレミスのシステムとの違いの観点から40字以内で答えよ。

解答例・解答の要点

C社の会計システムはSaaSなので,個別の会社向けの仕様変更が困難だから (36文字)

解説

SaaS(Software as a Service)は、サービス提供者が運用するシステムの機能をインターネット経由でサービスとして利用する形態です。システムで使用する機器やソフトウェアを自社施設内に設置し運用管理するオンプレミスシステムとは異なり、システム/ソフトウェアはサービス提供者の責任で維持管理されるため、一般的にシステムのイニシャルコストやランニングコストを抑えることのできる利点があります。一方で、SaaSで提供されるソフトウェアは汎用性の高い標準的な機能を持ち、あからじめ用意された範囲内で一定程度のカスタマイズが可能であるもの、独自の機能を加えたり細部に至るまでのカスタマイズをしたりなどは難しいという特徴があります。

D社の各システムはこれまでのオンプレミスの会計システムから、SaaSのC社会計システムに連携することとなります。〔合併後のシステムの方針〕には「両社のシステム間で新たな連携が必要となる場合は,インタフェースを新たに開発する」とありますが、C社会計システムはSaaSですので、もし必要なインタフェースを備えていなかったとしても、独自のインタフェースを設けることは困難です。これにより、合併後のシステム間の連携に支障を来たすおそれがあります。

したがって、オンプレミスのシステムとの違いから指摘事項が挙がった理由としては、SaaSなので個別のカスタマイズが難しい旨を回答することとなります。解答例としては「C社会計システムがSaaSであり、独自のインタフェースを付けることが難しいから」「SaaSであるC社会計システムは、個別のカスタマイズの自由度が低いから」などが適切と言えます。

∴C社の会計システムはSaaSなので,個別の会社向けの仕様変更が困難だから
模範解答

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