令和5年秋期試験午後問題 問10

問10 サービスマネジメント

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サービスレベルに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
 E社は防犯カメラ,入退室認証機器,監視モニターなどのオフィス用セキュリティ機器を製造販売する中堅企業である。E社の販売部の販売担当者は,E社営業日の営業時間である9時から18時までの間,販売活動を行っている。E社の情報システム部では,販売管理システム(以下,現システムという),製品管理システム,社内Webシステムなどを開発,運用し,社内の利用者にサービスを提供している。現システムは,納入先の所在地,納入先との取引履歴などの納入先情報を管理し,製品管理システムは,製品の仕様,在庫などの情報を管理する。社内Webシステムは24時間365日運用されており,E社の従業員は,業務に役立つ情報を,社内Webシステムを用いて,いつでも参照することができる。
 情報システム部には,サービス課,システム開発課及びシステム運用課がある。サービス課には複数のサービスチームが存在し,サービスレベル管理など,サービスマネジメントを行う。システム開発課は,システムの開発及び保守を担当する。システム運用課は,システムの運用及びIT基盤の管理を担当する。

 販売担当者を利用者として提供される販売管理サービス(以下,現サービスという)は現システムによって実現されている。販売担当者は,納入先から製品の引き合いがあった場合,まず現システムで納入先情報を検索して,引き合いに関する情報を登録する作業を行う。次に,現システムと製品管理システムの両システムに何度もアクセスして情報を検索したり,情報を登録したりする作業があり,最後に表示される納期と価格の情報を取り込んだ納入先への提案に時間が掛かっている。販売部は16時までに受けた引き合いは,当日の営業時間内に納入先に納期と価格の提案を行うことを目標にしているが,引き合いが多いと納入先への提案まで2時間以上掛かることもあり,目標が達成できなくなる。販売部が行う納入先への提案は販売部の重要な事業機能であるので,販売部は現サービスの改善を要求事項として情報システム部に提示していた。
 そこで,情報システム部は,販売部の要求事項に対応するため,現システムに改修を加えたものを新システムとし,来年1月から新サービスとして提供することになった。

〔新サービスとサービスマネジメントの概要〕
 販売部のG課長が業務要件を取りまとめ,システム開発課が現システムを改修し,システム運用課がIT基盤を用いて新システムを運用する。販売担当者が現サービスと同様に引き合いに関する情報を新システムに登録して,提案情報作成を新システムに要求すると,新サービスでは新システムと製品管理システムとが連動して処理を実行し,提案に必要となる納期と価格の情報を表示する。
 新サービスのサービスマネジメントについては,現サービス同様に,サービス課販売サービスチームのF君が担当する。サービス課では,従来からサービスデスク機能をコールセンター会社のY社に委託しており,新サービスについても,利用者からの問合せは,サービスデスクが直接受け付けて,利用者に回答を行う。問合せの内容が,インシデント発生に関わる内容の場合は,サービスデスクから販売サービスチームにエスカレーションされ,情報システム部で対応し,対応完了後,販売サービスチームは,サービスデスクに対応完了の連絡をする。例えば,一部のストレージ障害が疑われる場合は,販売サービスチームはシステム運用課にインシデントの診断を依頼し,システム運用課が障害箇所を特定する。その後,システム運用課で当該ストレージを復旧させ,販売サービスチームに復旧の連絡を行う。販売サービスチームはサービスデスクに連絡し,サービスデスクでは,サービスが利用できることを利用者に確認してサービス回復とする。

〔サービスレベル項目と目標の設定〕
 社内に提供するサービスについて,これまで情報システム部は,社内の利用部門との間でSLAを合意していなかったが,新サービスではサービスレベル項目と目標を明確にし,販売部と情報システム部との間でSLAを合意することにした。そこで,情報システム部が情報システム部長の指示のもとで,販売部の要求事項と実現可能性を考慮しながらサービスレベル項目と目標の案を作成し,新サービスの利害関係者と十分にレビューを行って合意内容を決定することとなった。F君が新サービスのSLAを作成する責任者となり,販売部との合意の前に,新システムの開発及び運用を担うシステム開発課及びシステム運用課のメンバーと協力してSLAのサービスレベル項目と目標を作成することにした。
 F君は,システム開発課がシステム設計を完了する前に,現システムで測定されているシステム評価指標を参考に,表1に示す販売部と情報システム部との間のサービスレベル項目と目標(案)を作成した。
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 F君は,表1を販売部のG課長に提示した。G課長は,販売部の要求事項に関連する内容が欠けていることを指摘し,表1に①サービスレベル項目を追加するように要求した。そこで,F君は,新システムに関わる情報システム部のメンバーと協議を行い,システム設計で目標としている性能を基にサービスレベル目標を設定し,追加するサービスレベル項目とともにG課長に提示し,了承を得た。

〔サービス提供者とサービス供給者との合意〕
 新サービスは,サービス課がサービス提供者となって,SLAに基づいて販売部にサービス提供される。サービス提供に際しては,外部供給者としてY社が,内部供給者としてシステム開発課及びシステム運用課が関与する。
 サービスデスクについてのサービスレベル目標の合意は,従来,サービス課とY社との間でaとして文書化されている。この中で,サービス課は,合意の前提となる問合せ件数が大きく増減する場合は,1か月前にY社に件数を提示することになっている。Y社は,提示された問合せ件数に基づき作業負荷を見積もりサービスデスク要員の体制を確保する。
 F君は,②新サービスを契機として,サービス課と内部供給者との間で,サービスレベル項目と目標を合意することにした。新サービスについてのサービス課とシステム開発課との間の主要なサービスレベル項目と目標(案)を表2に示す。
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 F君は,表2を上司にレビューしてもらった。すると,上司から,表1項番4のサービスレベル目標を達成するためには,"③表2項番2のサービスレベル目標は見直す必要がある"という指摘を受けた。

〔受入れテストにおける指摘と対応〕
 システム開発課による開発作業が完了し,新サービス開始の2週間前に販売部が参画する新サービスの受入れテストを開始した。受入れテストを行った結果,販売部から情報システム部に対して,次の評価と指摘が挙がった。
  • 機能・性能とも大きな問題はなく,新サービスを開始してよいと判断できる。
  • 新サービスの操作方法を説明したマニュアルは整備されているが,提案情報作成を要求する処理に関してはサービスデスクへの問合せが多くなると想定される。

 F君は,サービスデスクへの問合せ件数が事前の想定よりも多くなる懸念を感じた。Y社担当者とも検討し,④新サービス開始時点の問合せ件数を削減する対応が必要と考えた。そこで,利用者が参照できる⑤FAQを社内Webシステムに掲載することによって,新サービスの操作方法についてマニュアルで解決できない疑問が出た場合は,利用者自身で解決できるように準備を進めることにした。

設問1

〔サービスレベル項目と目標の設定〕について,本文中の下線①でG課長が追加するよう要求したサービスレベル項目として適切な内容を解答群の中から選び,記号で答えよ。
解答群
  • 製品の引き合いを受けてから提案するまでに要する時間
  • 納入先情報の検索時間
  • 販売担当者が提案情報作成を新システムに要求してから納期と価格の情報が表示されるまでに要する時間
  • 販売担当者が提案情報作成を新システムに要求するときの新システムにおける同時処理可能数

解答例・解答の要点


解説

設問の条件に従い、下線①を含む一文を確認すると「G課長は,販売部の要求事項に関連する内容が欠けていることを指摘し,表1にサービスレベル項目を追加するように要求した」と記述されています。そこで販売部の要求事項を確認すると、新サービスを提供することになった背景として「最後に表示される納期と価格の情報を取り込んだ納入先への提案に時間が掛かっている。…販売部は現サービスの改善を要求事項として情報システム部に提示していた」とあり、販売部は、提案に掛かる時間を短縮することを要求していたのだとわかります。しかし、表1には新サービスで最重要の要求事項である、提案時間の短縮に関するサービスレベル項目がありません。したがって、これがG課長の指摘した内容だと判断できます。

そうなると解答の候補となるのは提案に関する「ア」又は「ウ」ですが、サービスレベル項目としては、情報システム部がシステムを介して販売部に提供する機能や品質特性がふさわしいので「ウ」が適切です。

∴ウ:販売担当者が提案情報作成を新システムに要求してから納期と価格の情報が表示されるまでに要する時間
  • 引き合いから提案までには販売担当者の様々な作業が伴うため、情報システム部が約束できる時間ではありません。
  • 販売部からの要求事項ではないため誤りです。
  • 正しい。
  • 販売部からの要求事項ではないため誤りです。

設問2

〔サービス提供者とサービス供給者との合意〕について答えよ。
  • 本文中のaに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
  • 本文中の下線②で,F君が,サービス課と内部供給者との間でサービスレベル項目と目標を合意することにした理由は何か。40字以内で答えよ。
  • 本文中の下線③でサービスレベル目標を見直すべき理由は何か。40字以内で答えよ。
a に関する解答群
  • 契約書
  • サービスカタログ
  • サービス要求の実現に関する指示書
  • リリースの受入れ基準書

解答例・解答の要点

  • a:
  • 表1のサービスレベル目標の達成には,内部供給者との目標の合意が必要だから (36文字)
  • サービス回復時間にはシステム開発課以外で実施する作業の時間も含まれるから (36文字)

解説

  • aについて〕
    〔新サービスとサービスマネジメントの概要〕に「サービス課では,従来からサービスデスク機能をコールセンター会社のY社に委託しており,…」とあるように、サービス課とY社との間には、サービス提供者とそのサービスの一部を提供する外部供給者という関係があります。サービス提供者がSLAの実現のために内部的に交わすものとして、OLA(Operational Level Agreement:運用レベル合意書)と外部委託契約(UC:Underpinning Contract)があります。組織内部の別部署との合意がOLA、組織外部の供給者との合意が外部委託契約です。
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    Y社は外部供給者ですから交わすのは外部委託契約、JISの用語で言うと「契約書」がこれに該当します。なお、合意と契約の違いは法的拘束力の有無です。

    a=ア:契約書
    • 正しい。
    • サービスカタログは、サービス提供者が顧客に提供するすべてのサービスについてまとめた文書です。
    • サービス要求の実現に関する指示書は、サービス提供者がサービス運用担当者のために作成するマニュアル的な文書です。
    • リリースの受入れ基準書は、サービス課と販売部との間で交わされる合意文書です。
  • 設問の条件に従い、下線②を含む一文を確認すると「F君は,新サービスを契機として,サービス課と内部供給者との間で,サービスレベル項目と目標を合意することにした」と記述されています。内部供給者とは、システム開発課とシステム運用課です。

    サービス課は、サービス提供者としてSLAに基づいて販売課に新サービスを提供しますが、SLAのサービスレベルを維持するためには、システムの開発と保守を担当するシステム開発課、システムの運用及びIT基盤の管理を担当するシステム運用課の協力が必要です。SLAではサービスレベルとして定量的な指標が定義されるので、SLAのサービスレベルを実現するためには、内部供給者であるシステム開発課及びシステム運用課との間で運用レベルを定量的に定義し、合意しておく必要があります。これが、新サービスを契機として内部供給者との合意(OLA)をする理由です。

    ∴表1のサービスレベル目標の達成には,内部供給者との目標の合意が必要だから

  • 設問の条件に従い、下線③を含む一文を確認すると「表1項番4のサービスレベル目標を達成するためには,"表2項番2のサービスレベル目標は見直す必要がある"という指摘を受けた」と記述されています。

    表2項番2のサービスレベル目標は、サービス課からインシデントの診断依頼を受けてから8時間以内に復旧するという目標です。しかし、表1項番4のサービスレベル目標及び注1)を見ると、サービスデスクがインシデントを受け付けてからサービスが回復するまでの時間について、こちらも8時間以内となっています。

    サービスデスクがインシデントを受け付けた場合、記録と分類、優先度付けを経て、エスカレーションされます。またE社では、サービスデスクが、サービスが利用できることを利用者に確認した時点を"サービスの回復"としていますから、たとえシステム開発課が8時間以内の復旧を達成したとしても、サービス課やサービスデスクの対応時間が加わるとサービス回復時間が8時間を超えてしまい、SLAを遵守できない可能性があります。このため、表2項番2のインシデント復旧時間は、サービス回復までにシステム開発課以外での作業に要する時間を考慮して8時間より短く設定する必要があります。これが上司が指摘した内容だと判断できます。

    ∴サービス回復時間にはシステム開発課以外で実施する作業の時間も含まれるから

設問3

〔受入れテストにおける指摘と対応〕について答えよ。
  • 本文中の下線④で,F君が,問合せ件数を削減する対応が必要と考えた理由は何か。サービスデスク運用の観点で,25字以内で答えよ。
  • 本文中の下線⑤の方策は,サービスデスクへの問合せ件数削減が期待できるだけでなく,利用者にとっての利点も期待できる。利用者にとっての利点を40字以内で答えよ。

解答例・解答の要点

  • サービスデスク要員の体制が確保できないから (21文字)
  • サービスデスクのサポート時間帯以外でも,利用者が疑問を解決できる (32文字)

解説

  • 設問の条件に従い、下線④を含む文章を確認すると「F君は,サービスデスクへの問合せ件数が事前の想定よりも多くなる懸念を感じた。Y社担当者とも検討し,新サービス開始時点の問合せ件数を削減する対応が必要と考えた」と記述されています。

    この懸念は、新サービス開始の2週間前の受入れテストにおいて発覚した事項です。サービス課とY社とのサービスデスクに関する契約は、
    • サービス課は,合意の前提となる問合せ件数が大きく増減する場合は,1か月前にY社に件数を提示する
    • Y社は,提示された問合せ件数に基づき作業負荷を見積もりサービスデスク要員の体制を確保する
    とされており、2週間前では既に提示期限を過ぎているので、サービスデスク要員の体制が確保できない(増員が間に合わない)ことになります。少ないサービスデスク要員で対応せざるを得ない状況にあるため、F君は代案として新サービス開始時点の問合せ件数を自体を削減する対応を取ることを考えたと判断できます。これが解答根拠となります。

    ∴サービスデスク要員の体制が確保できないから

  • 設問の条件に従い、下線⑤を含む一文を確認すると「利用者が参照できるFAQを社内Webシステムに掲載することによって,新サービスの操作方法についてマニュアルで解決できない疑問が出た場合は,利用者自身で解決できるように準備を進めることにした」と記述されています。

    FAQは"Frequently Asked Questions"の略で、「よくある質問とその答え」をまとめたドキュメントを指します。FAQを社内Webシステムに掲載すると、利用者が自分自身で疑問を解決できる案件が増えるため、サービスデスクへの問合せ件数を削減する効果が望めます。

    社内Webシステムについては、問題文冒頭に「社内Webシステムは24時間365日運用されており,E社の従業員は,業務に役立つ情報を,社内Webシステムを用いて,いつでも参照することができる」とあるので、FAQを社内Webシステムに掲載すれば、利用者はいつでもFAQを参照できるようになります。サービスデスクの受付時間は9時から18時までであるのに対して、新サービスのサービス時間は9時から20時までであるので、利用者は18時から20時などサービスデスクのサポート時間帯以外においても、FAQを参照して自ら疑問を解決することができます。利用者にとってはこれが利点となります。

    ∴サービスデスクのサポート時間帯以外でも,利用者が疑問を解決できる
模範解答

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