平成21年秋期試験午後問題 問10

問10 プロジェクトマネジメント

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プロジェクトのリスクマネジメントに関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。
 P社は,業務ソフトウェアの受託開発を行う会社である。P社は,R社から生産管理システムの発注について口頭で内示を受け,Qプロジェクトとして,ソフトウェア開発を開始することになった。契約額や責任分担などの詳細は確定しておらず,現在調整中である。家電製品やAV機器を主に製造しているメーカーR社は,今後も,成長が期待される企業である。P社は,これまでR社との取引がないので,R社の情報部門の詳細状況は,正確には把握していない。P社がR社に提出した見積りでは,受注額の10%の利益を見込むことができる。R社からのRFPは充実度が高く,精度の高い見積りができ,仕様変更による工数の増加をあらかじめ見込んでおく必要はない。R社は,ソフトウェア開発技術にも興味をもっており,長期的には,自社で保守を行うことを考慮し,新しいソフトウェア開発技術を使って開発(以下,新技術を用いた開発という)することに積極的である。

〔Qプロジェクトでのリスクマネジメント〕
 プロジェクト開始に備え,Qプロジェクトの立上げ準備中であり,プロジェクトマネージャに,P社のS氏が任命された。S氏は,Qプロジェクトに参画を予定しているメンバと,プロジェクトのリスク及び問題点(PMBOKでは課題と定義されている)の洗出しを行った。①~⑦にその一部を示す。
  1. R社の体制が不十分で,要件の決定が遅延する。
  2. R社で準備予定の開発機器が準備できない。
  3. 総合テストの支援工数が増加する。
  4. 新技術を用いた開発を要求される。
  5. プロジェクトマネージャがR社への対応や社内調整で忙しく,プロジェクト計画書を作成することができていない。
  6. 総合テストについてR社との責任分担を決めても,そのとおりに実施できない。
  7. 提出した当初の見積りの内容に,責任分担などで,あいまいな点があり,見積り条件を明確にして,再提出する必要がある。
〔新技術を用いた開発を要求されるリスクの評価〕
 詳細な条件は折衝中であるが,S氏が営業担当者からヒアリングした状況では,新技術を用いた開発を要求される確率は高く,80%程度が見込まれる。その場合でも,従来技術で開発するという選択肢はある。S氏は,新技術を用いた開発を行う場合の,技術開発要員の割当,技術開発,プロトタイプでの実証,開発担当者の教育,初期品質の不安定性などの要素を検討し,従来技術で開発する場合と,新技術を用いた開発を行う場合の比較を,表1のようにまとめた。
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 S氏は,利益優先の観点から,Qプロジェクトのリスクの評価を行うことにした。従来技術で開発する場合と新技術を用いた開発を行う場合のリスクへの対応方法を評価したところ,表2のようになった。ただし,利益率は次の計算式で求める。

 利益率=(受注額-コスト)÷見積時に予定していた受注額×100 (%)
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 営業担当者からの情報によれば,今回のQプロジェクトが"成功"した場合は,2次開発として,Qプロジェクトの2倍の受注額となるプロジェクトを,R社から受注できる可能性があることが判明した。R社が他社と契約したときの状況を調査したところ,高い確率で,2次開発の受注の見込みがある。ただし,品質が不安定な場合には,プロジェクトが成功とは見なされず,2次開発をP社が受注できる可能性はない。品質が安定している場合には,開発期間が延伸しても,事前にR社の合意が得られていて,ペナルティを支払えば成功と見なされる。

〔Qプロジェクトとしての判断〕
 S氏は,R社から新技術を用いた開発を要求された場合でも,案Aの対応が良いと考えた

〔P社としての判断〕
 S氏は,P社としての見解を統一するため,対応方法を上長及び営業担当者と相談した。Qプロジェクトでの新技術を用いた開発技術の蓄積と,2次開発のプロジェクトでの利益を考慮して判断した結果,P社として,案Bの対応とすることにした。Qプロジェクトで新技術を用いて開発を行ったときに,2次開発では,新技術を用いた開発のノウハウを利用できるので,Qプロジェクトの基準と同様の見積りをすると,10%のコスト削減が可能である。図にQプロジェクトの基準で見積りを行った場合の2次開発の受注額,コスト,利益の関係を示す。
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 この場合,Qプロジェクトと2次開発を合わせた利益は,合計の受注額のb%となる。

〔Qプロジェクトでのリスク優先度〕
 Qプロジェクトで,対応が必要なリスクのうち,上位のものを表3にまとめた。
 Qプロジェクトで,新技術を用いた開発を要求されるというリスクに対応するための優先度は,表3のcの位置となる。
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設問1

〔Qプロジェクトでのリスクマネジメント〕の⑤~⑦をそれぞれリスクと問題点に分類せよ。現時点で発生していないものがリスク,発生しているものが問題点である。リスクの場合は"○",問題点の場合は"×"を解答欄に記せ。

解答例・解答の要点

⑤:×
⑥:
⑦:×

解説

プロジェクト管理におけるリスクと問題点(課題)、それぞれの意味を理解し、区別できるかを問うています。

リスクマネジメントとは、組織体の活動に伴い発生するあらゆるリスクを、統合的、包括的、戦略的に把握、評価、最適化し、価値の最大化を図る手法のことです。プロジェクト管理において、「リスク」は今起きているのではなく、将来起こり得る不確実な現象を意味します。一方、「問題点(課題)」は、現時点でのあるべき姿に対する現状との差、つまり既に起こってしまっている現象を意味します。

⑤は、現時点でプロジェクト計画書の作成が出来ていないと記述されています。
プロジェクト計画書とは、プロジェクトの目的と効果、対象とする業務内容とその範囲、組織と役割分担、人員計画、開発規模、スケジュールなどを記した文書で、プロジェクト進行の具体的な指針になります。プロジェクト計画書は、プロジェクトにおける出発点の役割を担っています。現時点でのあるべき姿はプロジェクト計画書が作成(完成)させていることですが、現状はプロジェクト計画書が作成できておらず、既に進捗が遅れています。
よって、⑤は「問題点(×)」といえます。

⑥は、結合テストが実施できないと記述されています。
現在はまだ計画の段階であり、結合テストは後のフェーズになるため、そもそも実施させていません。また、問題文の冒頭には「契約額や質任分担などの詳細は確定しておらず、現在調整中である。」や「R社の情報部門の詳細状況は、正確には把握していない。」と記述されており、まずはR社との責任分担を決める必要があると考えられます。
よって、⑥は「リスク(〇)」といえます。

⑦は、見積りを再提出する必要があると記述されています。
問題文の冒頭には、「P社がR社に提出した見積りでは、受注額の10%の利益を見込むことができる。」や「仕様変更による工数の増加をあらかじめ見込んでおく必要はない。」と記述されている一方で、「契約額や質任分担などの詳細は確定しておらず、」や「R社の情報部門の詳細状況は、正確には把握していない。」など、見積りの内容にあいまいな点が記述されています。
仮にこのままプロジェクトが始まった場合、コストや工数において見積りと大きくブレが発生する可能性があるため、現時点プロジェクト立ち上げ前に、R社へ正確な見積りの提出および承認を受ける必要があります。しかし、現状は見積りを再提出をしなければいけない状況になっているため、あるべき姿との差が既に起こっています。
よって、⑦は「問題点(×)」といえます。

∴⑤:×
 ⑥:〇
 ⑦:×

設問2

表2中のaに入れる適切な数値を答えよ。答えは小数第2位を四捨五入して,小数第1位まで求めよ。

解答例・解答の要点

a:5.0

解説

aについて〕
本文の情報を基に、正確な利益率を算出できるかを問うています。

〔新技術を用いた開発を要求されるリスクの評価〕には、本プロジェクトにおける利益率の式が以下のように定義されています。

 利益率=(受注額-コスト)÷見積時に予定していた受注額×100 (%)

また、表1より従来技術で開発を行う場合の情報を整理します。
  1. 受注額は見積額より5%減となると記述されていることから、「受注額=見積時の予定受注額×0.95
  2. コストは見積時と同じと記述されていることから、「コスト=見積時に予定していたコスト」です。さらに、問題文の冒頭には「P社がR社に提出した見積りでは、受注額の10%の利益を見込むことができる。」と記述されていることから、利益比からコスト比を逆算して「コスト=見積時に予定していたコスト=見積時の予定受注額×0.9
  3. 開発期間は指示通りのため、ペナルティや追加コストは発生しない
これらを上記の式にあてはめます。

 利益率=(見積時の予定受注額×0.95-見積時の予定受注額×0.9)÷見積時の予定受注額×100(%)
 利益率=(見積時の予定受注額×0.05)÷見積時の予定受注額×100(%)
 利益率=5 (%)

設問には「答えは小数第2位を四捨五入して,小数第1位まで求めよ。」という条件があるので、空欄に入る数値は「5.0」となります。

a=5.0

設問3

本文中の下線部のように考えた理由を,30字以内で述べよ。

解答例・解答の要点

従来技術で開発した方が,利益が大きくなるから (22文字)

解説

S氏が案Aの対応が良いと考えた理由が問われています。

案Aは従来技術で開発する場合にあたります。しかし、〔新技術を用いた開発を要求されるリスクの評価〕には、「新技術を用いた開発を要求される確率は高く、80%程度が見込まれる。」と記述されています。

そこで、S氏は従来技術で開発する場合と、新技術を用いた開発を行う場合の比較し表2にまとめています。表2から、2つの案を比較した結果を以下に整理します。
  1. 利益率は、案Aのほうが高い
  2. 開発期間は、案Aのほうが短い
  3. 品質については、両案とも安定している
上記より案Aを選んだ理由は①と②が考えられます。

しかし、本文中に「品質が安定している場合には,開発期間が延伸しても,事前にR社の合意が得られていて,ペナルティを支払えば成功と見なされる。」と記述されていることから、案Bは品質は安定しているため、たとえ案Bの開発期間が指定期間を超えても、R社は新技術を用いた開発を要求する可能性が高いため、②は判断材料になりません。よって、S氏が案Aの対応を良いと考えた理由は「従来技術で開発した方が、利益が大きくなるから」であると考えられます。

∴従来技術で開発した方が、利益が大きくなるから

設問4

本文中のbに入れる適切な数値を答えよ。答えは小数第2位を四捨五入して,小数第1位まで求めよ。

解答例・解答の要点

b:7.5

解説

bについて〕
Qプロジェクトを案Bで行った場合と2次開発を合わせた利益率を求めます。

Qプロジェクト(案B採用時)と2次開発を合わせた利益率は次の式で求めます。

 利益率=(案Bの利益額+2次開発の利益額)/(案Bの受注額+2次開発の受注額)×100 (%)

以下に各変数を案Bで行ったときのQプロジェクトの受注額を用いて式で表します。
  1. 表1より新技術を用いた開発を行った場合の受注額は見積額どおりであること、また、〔新技術を用いた開発を要求されるリスクの評価〕には「2次開発として、Qプロジェクトの2倍の受注額となる」と記述されていることから、
    「2次開発の受注額=見積時の受注額×2=案Bの受注額×2」
  2. 案Bの利益額は、表2の利益率を使って「-0.155×案Bの受注額
  3. 2次開発の利益は、図より「z×2+コスト削減分」
    zは図より見積時のQプロジェクトの利益を表しており、問題文の冒頭には「P社がR社に提出した見積りでは、受注額の10%の利益を見込むことができる。」と記述されていることから、
    「z=見積時の受注額×0.1=案Bの受注額×0.1」
    またコスト削減分は、〔P社としての判断〕に「2次開発では、…Qプロジェクトの基準と同様の見積りをすると,10%のコスト削減が可能である。」と記述されていることから、
    「コスト削減分=2次開発の受注額×0.9×0.1=案Bの受注額×2×0.9×0.1」。
    これらを2次開発の利益の式にあてはめます。
    「2次開発の利益=案Bの受注額×0.1×2+案Bの受注額×2×0.9×0.1」と表せます。
①~③を上記の式にあてはめます。

 利益率=(-0.155×案Bの受注額+案Bの受注額×0.1×2+案Bの受注額×2×0.9×0.1)/(案Bの受注額+案Bの受注額×2)×100 (%)
=(-0.155×案Bの受注額+案Bの受注額×0.2+案Bの受注額×0.18)/(案Bの受注額×3)×100 (%)
=(0.225×案Bの受注額)/(案Bの受注額×3)×100 (%)
=7.50 (%)

設問には「答えは小数第2位を四捨五入して,小数第1位まで求めよ。」という条件があるので、空欄は入る数値は「7.5」になります。

b=7.5

設問5

本文中のcに入れる適切な字句を,表3中のア~エの記号で答えよ。

解答例・解答の要点

c:

解説

cについて〕
表3より、Qプロジェクトでのリスク対応の優先順位は、「発生確率×利益率」を評価基準としており、値が大きいほど優先順位が高くなります。この問題では、新技術を用いた開発を要求される発生確率とそのリスクが現実化したときの利益率から、優先度の位置を判断します。

まず発生確率は、〔新技術を用いた開発を要求されるリスクの評価〕に「新技術を用いた開発を要求される確率は高く、80%程度が見込まれる。」と記述されていることから「高(80%)」となります。そして利益率は、表2より「-15.5%」となります。

よって、リスクの評価値は「80%×(-15.5%)=-12.40%」と計算され、新技術を用いた開発を要求されるというリスクに対応するための優先度は、表3の「ウ」の位置となります。

c=ウ
模範解答

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