応用情報技術者過去問題 平成28年秋期 午後問10

⇄問題文と設問を画面2分割で開く⇱問題PDF

問10 サービスマネジメント

販売管理サービスの変更に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。

 K社は,中堅の食品卸売業者であり,飲食店に食品の材料を販売している。K社のシステム部は,K社販売部向けに販売管理サービスを提供している。販売部員は販売部のPCから販売管理システムに,販売データをオンラインで入力している。販売部のPCでは,販売管理システムに接続するためのソフトウェア(以下,接続ソフトウェアという)が稼働している。販売管理システムで使用するアプリケーションは,自社で開発したものである。
 システム部と販売部で合意している販売管理サービスのSLA(以下,社内SLAという)の一部を表1に示す。
pm10_1.png/image-size:453×170
 現在稼働している販売管理システムのサーバは社内に設置しているが,運用費用が増大し,管理業務も煩雑になっていた。そこで,システム部では,クラウド事業者のL社が提供するPaaSに移行することを決めた。当該PaaSはL社の運用センタで稼働するサービスであり,L社とK社とは専用線で接続する。システム部のM君は,販売管理サービスの変更及びL社との調整を担当している。

〔K社とL社の間のSLA〕
 今回,L社が提供するサービスの範囲と品質を明確にするために,K社とL社との間でSLAを含んだ契約を締結することにした。そこで,M君は,K社の要求事項として表1と同一の内容をSLA案としてL社に提示し,打診した。すると,L社から,"①オンライン応答時間については,サービスレベル項目とすることはできない。その他のサービスレベル項目は,目標値を含めてSLAの内容とすることは可能である。"との回答があった。M君は,L社の回答を妥当と判断し,オンライン応答時間を除いてSLA案とし,社内のレビューを行った。
 社内レビューで,"SLA案には問題点がある。②PaaSで障害が発生したとき,社内SLAを遵守できない場合が残る。"と指摘された。その後,M君は,問題点の対応を行い,SLA案の内容を修正した。K社は,L社と修正内容について調整を行い,契約の締結に至った。

〔サービス変更のプロセス〕
 PaaSへの移行を支障なく行うために,M君は,社内の関連する規程を確認した。サービス変更に関するプロセスの概要を図1に示す。
pm10_2.png/image-size:506×293
 変更管理プロセスは,変更要求元からaを受け付ける。今回のように,サービス又は顧客に重大な影響を及ぼす可能性がある変更の場合は,新規サービス又はサービス変更の設計及び移行プロセスを実施する。aは,変更管理プロセスで評価され,承認される。変更が承認されたら,リリース及び展開管理プロセスで,リリース及び展開の計画(以下,システム切替計画という)を立案し,リリースを展開する。展開が成功すると,構成管理プロセスでは,展開されたリリースのb情報を受け取り,cの更新を行う。

〔システム切替計画〕
 販売管理サービスの変更に伴うシステム切替計画を立案するに当たって,M君は,上司のN部長から,次のように指示された。
  • K社規程の次のサービス変更方針に従うこと。
    • 事前にサービスの利用部門と調整を行い,必要であれば計画停止時間を設けて切替えを行う。
    • サービスの利用部門が利用する前に,サービスの稼働を確認する。
    • 展開作業中にインシデントが発生するなどの不測の事態に備えて,必要な作業項目を設けて計画を立案する。
  • システム部が今までに実施したシステム切替作業では,次のような苦労を経験したので,今回は同じような苦労をしなくて済むようにすること。
    • インシデントが発生したときの事業に与える影響範囲を局所化できるので,段階的移行方式を採る場合が多かった。しかし,新旧のシステム間や他システムとのデータの整合性を確保するのに苦労した。
    • 切替計画書に基づいて,関係者による机上での確認を事前に行っていた。しかし,システム切替作業を実施すると,計画書の内容不備が発見されたり,計画書には書かれていない想定外の事態が発生したりして,それらの対応に苦労した。
 これを受け,M君は,次のシステム切替計画案を作成した。
  • 過去に苦労した経験を踏まえて,次のように切替えを行う。
    1. 今回のシステム切替えは,dしやすい一斉移行方式を採る。
    2. 切替計画に不備がないことを確認するために,システム切替作業の実施日よりも前に,移行ツールなどのテストとは別に,eを実施する。
  • M君は,切替えのための計画停止時間について販売部と調整したところ,業務上の都合から,通常のサービス提供時間内の停止は避けてほしいと言われた。そこで,システム切替えは,サービス提供時間外の深夜O時から6時までの時間帯を利用して実施する。
  • 切替日の前までに実施する準備作業は次のとおりである。
    1. 切替日の前までに,既存のサーバを停止しなくても実施可能なシステムの導入作業を完了させる。L社側で必要なシステムの導入や設定作業も,切替日の前までに完了させる。
    2. 切替日以降は販売部のPCからL社に接続できるように,販売部のPCの接続ソフトウェアを更新する。更新は,切替日の前日に販売部員がそれぞれのPCを使い終わった後で,システム部員が順次行い,24時までに完了する。
  • 切替日に必要な作業は,データの移行作業及び稼働確認作業である。データの移行作業は5時間,稼働確認作業は1時間が必要である。切替日は6時にサービスが開始できるように,切替日の作業は,前日のサービス処理終了後の深夜0時から開始する。
 N部長は,システム切替計画案をレビューした。N部長は,M君に"③システム切替計画で考慮しておくべき作業が漏れている。サービス変更方針に沿って計画を修正すること。"と指摘した。

設問1

〔K社とL社の間のSLA〕について,(1),(2)に答えよ。
  • 本文中の下線①の理由を,35字以内で具体的に述べよ。
  • 本文中の下線②の"社内SLAを遵守できない場合"とはどのような場合か,40字以内で具体的に述べよ。

解答入力欄

解答例・解答の要点

    • アプリケーションはL社が提供するPaaSの範囲外であるから (29文字)
    • 障害復旧後にK社が行うアプリケーションの稼働確認の時間が確保できない場合 (36文字)
  • 解説

    自社運用から外部ベンダのクラウドサービスへのシステム切替えを題材に、サービスマネジメントの理解が問われています。設問1(1)と設問3(1)は本文を丁寧に読み込むことで正解に辿り着け、設問2はこの試験に備えて学習した用語の知識で解答できますが、設問1(2)と設問3(2)(3)では、システム切替の実務に精通しているかが問われ、難易度が高くなっています。
    • 販売管理システムをL社の運用センタで稼働させるにあたって締結するSLAなので、その内容はL社が自らの責任として保証できる範囲に限られます。サービス提供時間とサービス稼働率はL社が提供するPaaSの制約に依存するため、SLAの内容に含めることができますが、オンライン応答時間は、K社が開発しPaaSに配置するアプリケーションやK社とL社との間の専用線の品質が大きく影響するので、L社は責任を負うことができません。

      ∴アプリケーションはL社が提供するPaaSの範囲外であるから

    • この問の解答には、自社開発したシステムを外部ベンダの運用センタで稼働させる場合のインシデント対応は、運用先のベンダと開発元の自社の両方の対応が必要な場合があることに思い至る必要があります。
      L社とのSLA案の中には、インシデントの解決時間として4時間と設定されていますが、これはL社が提供するPaaSで障害が発生してから復旧するまでの時間です。しかし、L社が自社の責任範囲内で復旧作業を終えても、その後、利用者が販売管理システムを利用できるようになるまでには、K社で開発されたアプリケーションに関する復旧作業が発生するなどして、さらに時間を要する可能性があります。

      本問では、PaaSの障害発生時に社内SLAを遵守できない具体的なケースが問われているので、「PaaSの復旧後、インシデント解決時間内にK社アプリケーションの稼働確認ができない場合」等の記述が適切となります。

      ∴障害復旧後にK社が行うアプリケーションの稼働確認の時間が確保できない場合

    設問2

    図1及び本文中のacに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
    a,b,c に関する解答群
    • CAB
    • CI
    • CMDB
    • OODB
    • PIR
    • RDBMS
    • RFC
    • RFI

    解答入力欄

    • a:
    • b:
    • c:

    解答例・解答の要点

    • a:
    • b:
    • c:

    解説

    解答群の用語の意味は以下の通りです。
    CAB(Change Advisory Board,変更諮問委員会)
    変更要求をさまざまな観点から検討し、変更の可否を評価するための組織
    CI(Configuration Item,構成アイテム)
    サービスの提供のために管理する必要がある要素
    CMDB(Configuration Management Database,構成管理データベース)
    構成品目のライフサイクルを通して、構成品目の属性及び構成品目間の関係を記録するために使用するデータベース
    OODB(Object-Oriented DataBase)
    オブジェクト指向データベース
    PIR(Post Implementation Review,実施後のレビュー)
    変更またはプロジェクト実施後に行われる、期待どおりの効果があがっているかどうかのレビュー
    RDBMS(Relational DataBase Management System)
    関係データベースを管理するミドルウェア
    RFC(Request for Change,変更要求)
    行うべき変更についての正式な提案
    RFI(Request for information)
    発注先候補に対する情報提供依頼書
    RFP(Request for Proposal)
    発注先候補に対する提案依頼書
    aについて〕
    変更管理プロセスにおいて変更要求元から受け付けるものですので変更要求、すなわちRFCが該当します。同じRFCという用語には、IETFが発行している「Request for Comments」もありますが、こちらはインターネット関連の技術仕様文書ですので、混同しないように注意しましょう。

    a=キ:RFC

    bcについて〕
    構成管理プロセスが、リリース及び展開管理プロセスからb情報を受取り、それをもとにcを更新する流れになっています。
    JIS Q 20000-1で「CMDBの記録は,変更の展開の成功後に更新しなければならない」とされているように、サービスの構成アイテム(CI)が変更された場合、構成管理プロセスは構成管理データベース(CMDB)を更新する必要があります。よってbにはCIが、cにはCMDBが入ります。

    b=イ:CI
     c=ウ:CMDB

    設問3

    〔システム切替計画〕について,(1)~(3)に答えよ。
    • 本文中のdに入れる適切な字句を15字以内で答えよ。
    • 本文中のeに入れる適切な字句を10字以内で答えよ。
    • 本文中の下線③について,考慮すべき作業を35字以内で答えよ。

    解答入力欄

      • d:
      • e:
      • o:

    解答例・解答の要点

    • d:データの整合性を確保 (10文字)
    • e:試行 (2文字) 又は 移行リハーサル (7文字)
    • o:展開作業中に発生するインシデントに備えた切り戻し作業 (26文字)
  • 解説

    • dについて〕
      一斉移行方式をとると何が容易になるかが問われています。過去に苦労した経験を踏まえてのことなので、過去に何を苦労したかをN部長の指示の中から探します。

      一斉移行方式と対置されるのは段階的移行方式です。段階的移行方式では「新旧のシステム間や他システムとのデータの整合性を確保するのに苦労した」と記載されていますので、一斉移行方式の採用によって解決が期待されているのはこの問題であるとわかります。システム切替えの実務に精通された方は、データの整合性を確保する以外にも一斉移行方式のメリットが思い浮かぶかもしれませんが、本文中に明確に(メリットとは逆のデメリットとしても)記載されている内容があれば、それを解答とするのが得策です。

      d=データの整合性を確保

    • eについて〕
      文脈よりeは、「切替計画に不備がないことを確認するために,システム切替作業の実施日よりも前に」実施するものであることがわかります。システムの移行に際して、一連の作業内容や作業手順の把握や、移行に伴う問題点とそれに対する事前策の確認を行う、とくれば移行テストです。
      また、N部長の指示の(2)に「システム切替作業を実施すると,計画書の内容不備が発見されたり,計画書には書かれていない想定外の事態が発生したりして,それらの対応に苦労した」と記載されていることに着目すれば、この問題への対応策がeの解答になることがわかります。「計画書の内容不備が発見されたり,計画書には書かれていない想定外の事態が発生」したりするのは、テスト環境などで切替作業のリハーサルを行っていないためです。

      解答は10文字以内なので、様々な解答が可能ですが、解答例にある試行・移行リハーサルの他にも、移行シミュレーションや移行テストなどでも大きくは外れていないと思います。

      e=試行 又は 移行リハーサル

    • M君のシステム切替計画案は、すべて順調に作業が進んだ場合だけを想定して作られています。ところが、切替えに必要な作業に要する時間は6時間(データの移行作業は5時間、稼働確認作業は1時間)で、これを実施するのに許された時間は、サービス提供時間外の深夜0時から6時までの6時間です。移行作業中に想定外のインシデントが発生した場合でも、原因を調べて対応している余裕は全くありませんので、その日のシステム切替を中止して、後日あらためて実施する可能性があることも考慮しなければなりません。

      システム切替を中止する場合、切戻しが必要になります。切戻しとは、システムを切替前の状態に戻し、切替えに関わる一連の作業はなかったものとして、利用者が従来通りシステムを使えるようにする作業です。移行計画には、切戻しの作業手順やタイムスケジュールも含める必要があります。

      ∴展開作業中に発生するインシデントに備えた切り戻し作業
    問10成績

    平成28年秋期 午後問題一覧

    問1 問2 問3 問4 問5 問6 問7 問8 問9 問10 問11 採点講評
    © 2010-2024 応用情報技術者試験ドットコム All Rights Reserved.

    Pagetop