応用情報技術者過去問題 平成24年春期 午後問5
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携帯電話サービスを使った無線WANに関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。
S社は建設会社である。ある日,情報システム部のT氏は,新規に建設するビルの工事現場に建てた仮設事務所と本社の間で通信を行うために,図1に示す要件を満たす方法を検討するよう指示を受けた。 T氏が早速,有線回線の利用開始可能日を通信業者に問い合わせたところ,要件6.を満たさないことが判明したので,今回は有線のブロードバンドネットワークサービスでなく,携帯電話サービスを利用した無線WANを構築することに決めた。また,別の要件から,aの容易さにおいても携帯電話サービスを利用する方が有利であると判断した。図2にネットワーク構成を示す。現場PCは,無線LAN/無線WAN対応ルータを経由して,本社のルータとVPN接続をする。 無線WANの利用を開始したところ,日常の電子メールの送受信に特に支障はなかった。しかし,主目的であるファイル転送において,ファイルサイズが数十Mバイトと大きい場合に時間が掛かり,業務に支障を来していた。今回採用した3G携帯電話サービスはベストエフォート方式であり,通信速度の理論値は,下りが最大7.2Mビット/秒,上りが最大5.7Mビット/秒である。①実際の通信速度は,電波状況が良好な場合でも,他の利用者の利用状況によって理論値の数分の1になることをあらかじめ想定していた。なお,ゲートウェイと本社のVPNルータの間には十分な帯域を確保できている。
T氏は,ファイル転送に時間が掛かる原因を調査した。ネットワークに遅延が生じていると考え,現場PCから本社のサーバに向け,pingコマンドを用いてサーバまでの往復遅延時間(RTT:Round Trip Time)を測定したところ,800ミリ秒であった。
TCPネットワークでは,最大スループットは,"TCPウインドウサイズ÷RTT"で求められる。TCPウインドウサイズを大きくすることができれば,最大スループットを大きくすることができる。現在,現場PCのTCPウインドウサイズの上限値を64kバイトに設定している。今回の3G携帯電話サービスの利用においてTCPウインドウサイズを更に大きくすると,大容量データが頻繁に再送されてしまい逆効果になりかねない。そこで,TCPウインドウサイズの変更は対策の候補から除外することにした。
また一方,②RTTを小さくすることができれば,最大スループットを大きくすることができる。しかし,今回は有線のブロードバンドネットワークサービスなどの他のサービスに切り替えることが難しいので,T氏はすぐにRTTを小さくする方法をとることができなかった。
仮設事務所と本社の間のネットワークにおいて,RTTが800ミリ秒の場合の最大スループットは,bkビット/秒と計算される。
このままではファイル転送に必要なスループットが不足するので,T氏は"分割ダウンロード"機能をもつFTPクライアントソフトを使うことを試みた。分割ダウンロードは,一つのファイルを分割し,複数のTCPコネクションで同時並行に分割ファイルをダウンロードした後,元の一つのファイルに結合する機能である。分割ダウンロード機能を使わない場合のダウンロードにおける実効スループットが450kビット/秒であった場合,分割ダウンロード機能を使って60MバイトのCADファイルのダウンロード時間を4分以内にするには,ファイルをc個に分割すればよい。
なお,pingコマンドを使ったRTTの測定の前に現場PCから外部の速度測定サイトへアクセスして調べたところ,電波強度の状況は良好であり,下りで2~3Mビット/秒程度の速度が計測されていた。速度測定サイトでの速度測定には,TCPでなくdを使っているので,RTTの影響を受けずに十分な速度が出ていたものと推測した。
S社は建設会社である。ある日,情報システム部のT氏は,新規に建設するビルの工事現場に建てた仮設事務所と本社の間で通信を行うために,図1に示す要件を満たす方法を検討するよう指示を受けた。 T氏が早速,有線回線の利用開始可能日を通信業者に問い合わせたところ,要件6.を満たさないことが判明したので,今回は有線のブロードバンドネットワークサービスでなく,携帯電話サービスを利用した無線WANを構築することに決めた。また,別の要件から,aの容易さにおいても携帯電話サービスを利用する方が有利であると判断した。図2にネットワーク構成を示す。現場PCは,無線LAN/無線WAN対応ルータを経由して,本社のルータとVPN接続をする。 無線WANの利用を開始したところ,日常の電子メールの送受信に特に支障はなかった。しかし,主目的であるファイル転送において,ファイルサイズが数十Mバイトと大きい場合に時間が掛かり,業務に支障を来していた。今回採用した3G携帯電話サービスはベストエフォート方式であり,通信速度の理論値は,下りが最大7.2Mビット/秒,上りが最大5.7Mビット/秒である。①実際の通信速度は,電波状況が良好な場合でも,他の利用者の利用状況によって理論値の数分の1になることをあらかじめ想定していた。なお,ゲートウェイと本社のVPNルータの間には十分な帯域を確保できている。
T氏は,ファイル転送に時間が掛かる原因を調査した。ネットワークに遅延が生じていると考え,現場PCから本社のサーバに向け,pingコマンドを用いてサーバまでの往復遅延時間(RTT:Round Trip Time)を測定したところ,800ミリ秒であった。
TCPネットワークでは,最大スループットは,"TCPウインドウサイズ÷RTT"で求められる。TCPウインドウサイズを大きくすることができれば,最大スループットを大きくすることができる。現在,現場PCのTCPウインドウサイズの上限値を64kバイトに設定している。今回の3G携帯電話サービスの利用においてTCPウインドウサイズを更に大きくすると,大容量データが頻繁に再送されてしまい逆効果になりかねない。そこで,TCPウインドウサイズの変更は対策の候補から除外することにした。
また一方,②RTTを小さくすることができれば,最大スループットを大きくすることができる。しかし,今回は有線のブロードバンドネットワークサービスなどの他のサービスに切り替えることが難しいので,T氏はすぐにRTTを小さくする方法をとることができなかった。
仮設事務所と本社の間のネットワークにおいて,RTTが800ミリ秒の場合の最大スループットは,bkビット/秒と計算される。
このままではファイル転送に必要なスループットが不足するので,T氏は"分割ダウンロード"機能をもつFTPクライアントソフトを使うことを試みた。分割ダウンロードは,一つのファイルを分割し,複数のTCPコネクションで同時並行に分割ファイルをダウンロードした後,元の一つのファイルに結合する機能である。分割ダウンロード機能を使わない場合のダウンロードにおける実効スループットが450kビット/秒であった場合,分割ダウンロード機能を使って60MバイトのCADファイルのダウンロード時間を4分以内にするには,ファイルをc個に分割すればよい。
なお,pingコマンドを使ったRTTの測定の前に現場PCから外部の速度測定サイトへアクセスして調べたところ,電波強度の状況は良好であり,下りで2~3Mビット/秒程度の速度が計測されていた。速度測定サイトでの速度測定には,TCPでなくdを使っているので,RTTの影響を受けずに十分な速度が出ていたものと推測した。
設問1
今回採用した携帯電話サービスについて,(1),(2)に答えよ。
- 本文中のaに入れる適切な字句を20字以内で答えよ。
- ベストエフォート方式で,本文中の下線①のようになる理由を,図2中の字句を用いて35字以内で述べよ。
解答入力欄
- a:
- o:
解答例・解答の要点
- a:仮設事務所の移設に伴うLANの移動 (17文字)
- o:理論値は1端末が基地局を専有した場合の最大速度であるから (28文字)
解説
- 〔aについて〕
現場PCおよび無線LANルータが設置されるのが仮設事務所だということがポイントです。要件の5番目には、「仮設事務所の開設期間は6ヶ月間であり、工事の進捗に応じて、期間中にビルの敷地内に移設することを想定している」とあります。つまり、移設の日程が定まっていません。
有線回線を使用した場合は、業者による回線の引き込み工事が必要になるため移設日が決定したとしても直ぐには移設できません。しかし無線LAN環境であれば現場PCおよび無線LAN/WANルータを移動させるだけで済みます。このため無線WANは「移設時期が工事の進捗状況に左右される」いう今回の要件に適しているといえます。
∴a=仮設事務所の移設に伴うLANの移動 - ベストエフォート方式とは「通信網は最善を尽くすが利用状況によっては通信の品質を保証しない」という通信サービスの方針です。また回線速度の理論値とは通信環境が完全に整ったときに出る速度であり、計算上算出された値です。実際にはパソコンや宅内/社内ルータの性能や基地局の混雑具合によって左右されます。
このためベストエフォート型の通信サービスでは、同時間に基地局にアクセスする利用者が多いとその分だけ通信速度が低下する可能性があります。
∴理論値は1端末が基地局を専有した場合の最大速度であるから
設問2
TCPネットワークの最大スループットについて,(1),(2)に答えよ。
- 本文中のbに入れる適切な数値を整数で答えよ。ここで,1kバイトは1,000バイトとする。
- 本文中の下線②と同様に,スループットに関する考察として適切なものを解答群の中から選び,記号で答えよ。
解答群
- RTTが変わらなくても,携帯電話サービス回線の帯域が広くなれば,最大スループットの値は大きくなる。
- RTTが変わらなければ,携帯電話サービス回線の帯域が広くなっても,スループットはある値以上にならない。
- 携帯電話サービス回線の帯域によらずスループットの値は変わらない。
解答入力欄
- b:kビット/秒
- o:
解答例・解答の要点
- b:640
- o:イ
解説
- 〔bについて〕
本文中に「最大スループットは,"TCPウィンドウサイズ÷RTT"で求められる」と計算式が示されています。同様に本文中より現場PCのウィンドウサイズの上限値が64kバイト、RTT(往復遅延時間)は800ミリ秒=0.8秒なので、最大スループットは次のように求められます。
64×8÷0.8=640(kビット/秒)
∴b=640 - "最大スループット=TCPウィンドウサイズ÷RTT"の式より、最大スループットを大きくするためには「TCPウィンドウサイズを大きくする」または「RTTを小さくする」のどちらかを達成しなくてはならないことがわかります。
- 仮に帯域が広くなっても、ネットワークの遅延などの理由でRTTが変わらなければ最大スループットも変わりません。
- 正しい。上記の式から、RTTが変わらなければ最大スループットも変わらないことがわかります。
- 現状よりRTTが小さい回線を利用すれば最大スループットは大きくなります。
設問3
本文中のcに入れる最小の整数を答えよ。ここで,1Mバイトは1,000kバイトとする。また,ファイルの分割・結合など,ダウンロード以外に要する時間は無視できるものとする。
解答入力欄
- c:個
解答例・解答の要点
- c:5
解説
〔cについて〕
1つのTCPコネクションが450kビット/秒で4分間(240秒間)に転送可能な最大データ量は、
450×240=108,00kビット
=108Mビット=13.5Mバイト
ダウンロード目的のCADファイルは60Mバイトなので、コネクション当たりの最大転送データ量で除して分割すべき数を求めます。
60÷13.5=4.4444…
したがってダウンロード時間を4分以内にするためには最低でも5つのファイルに分割しなくてなりません。
∴c=5
1つのTCPコネクションが450kビット/秒で4分間(240秒間)に転送可能な最大データ量は、
450×240=108,00kビット
=108Mビット=13.5Mバイト
ダウンロード目的のCADファイルは60Mバイトなので、コネクション当たりの最大転送データ量で除して分割すべき数を求めます。
60÷13.5=4.4444…
したがってダウンロード時間を4分以内にするためには最低でも5つのファイルに分割しなくてなりません。
∴c=5
設問4
本文中のdに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
d に関する解答群
- DHCP
- HTTP
- HTTPS
- SMTP
- SNMP
- UDP
解答入力欄
- d:
解答例・解答の要点
- d:カ
解説
〔dについて〕
TCPでは、データを送信した後、相手から返信される確認応答(TCP ACK)を受信してから次のデータを送信する仕組みになっています。このため送信側は全てのデータを立て続けに送るのではなく、"データ送信"→"確認応答待ち"→"データ送信"→"確認応答待ち"のサイクルを繰り返します。このときRTTが大きければ確認応答の待ち時間も長くなってしまうため、スループットは低下します。トランスポート層にTCPを使用するプロトコルであれば例外なくRTTの影響を受けます。
一方、トランスポート層のもう1つのプロトコルであるUDPには確認応答や再送制御の仕組みがありません。このため相手からの確認応答を待つことなく、全てのデータを連続して送信できます。速度測定サイトでは「RTTの影響を受けずに十分な速度が出ていた」という記述からUDPを使用していると判断できます。
選択肢のうちHTTP(TCP/80)、HTTPS(TCP/443)、SMTP(TCP/25)はTCPを使用するため不適切です。またDHCPとSNMPはUDPを使用しますが、どちらもパケットフォーマットが固定長であり、速度測定で用いられるような任意のデータの転送には向きません。したがってUDPが適切です。
∴d=カ:UDP
TCPでは、データを送信した後、相手から返信される確認応答(TCP ACK)を受信してから次のデータを送信する仕組みになっています。このため送信側は全てのデータを立て続けに送るのではなく、"データ送信"→"確認応答待ち"→"データ送信"→"確認応答待ち"のサイクルを繰り返します。このときRTTが大きければ確認応答の待ち時間も長くなってしまうため、スループットは低下します。トランスポート層にTCPを使用するプロトコルであれば例外なくRTTの影響を受けます。
一方、トランスポート層のもう1つのプロトコルであるUDPには確認応答や再送制御の仕組みがありません。このため相手からの確認応答を待つことなく、全てのデータを連続して送信できます。速度測定サイトでは「RTTの影響を受けずに十分な速度が出ていた」という記述からUDPを使用していると判断できます。
選択肢のうちHTTP(TCP/80)、HTTPS(TCP/443)、SMTP(TCP/25)はTCPを使用するため不適切です。またDHCPとSNMPはUDPを使用しますが、どちらもパケットフォーマットが固定長であり、速度測定で用いられるような任意のデータの転送には向きません。したがってUDPが適切です。
∴d=カ:UDP