応用情報技術者過去問題 令和3年春期 午後問9

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問9 プロジェクトマネジメント

プロジェクトのコスト見積りに関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。

 L社は大手機械メーカーQ社のシステム子会社であり,Q社の様々なシステムの開発,運用及び保守を行っている。このたび,Q社は,新工場の設立に伴い,新工場用の生産管理システムを新規開発することを決定した。この生産管理システム開発プロジェクト(以下,本プロジェクトという)では,業務要件定義と受入れをQ社が担当し,システム設計から導入までと受入れの支援をL社が担当することになった。L社とQ社は,システム設計と受入れの支援を準委任契約,システム設計完了から導入まで(以下,実装工程という)を請負契約とした。
 本プロジェクトのプロジェクトマネージャには,L社システム開発部のM課長が任命された。本プロジェクトは現在Q社での業務要件定義が完了し,これからL社でシステム設計に着手するところである。L社側実装工程のコスト見積りは,同部のN君が担当することになった。

 なお,L社はQ社の情報システム部が,最近になって子会社として独立した会社であり,本プロジェクトの直前に実施した別の新工場用の生産管理システム開発プロジェクト(以下,前回プロジェクトという)が,L社独立後にQ社から最初に受注したプロジェクトであった。本プロジェクトのL社とQ社の担当範囲や契約形態は前回プロジェクトと同じである。

〔前回プロジェクトの問題とその対応〕
 前回プロジェクトの実装工程では,見積り時のスコープは工程完了まで変更がなかったのに,L社のコスト実績がコスト見積りを大きく超過した。しかし,①L社は超過コストをQ社に要求することはできなかった。本プロジェクトでも請負契約となるので,M課長はまず,前回プロジェクトで超過コストが発生した問題点を次のとおり洗い出した。
  • コスト見積りの機能の範囲について,Q社が範囲に含まれると認識していた機能が,L社は範囲に含まれないと誤解していた。
  • 予算確保のためにできるだけ早く実装工程に対するコスト見積りを提出してほしいというQ社の要求に応えるため,L社はシステム設計の途中でWBSを作成し,これに基づいてボトムアップ見積りの手法(以下,積上げ法という)によって実施したコスト見積りを,ほかの手法で見積りを実施する時間がなかったので,そのまま提出した。その後,完成したシステム設計書を請負契約の要求事項として使用したが,コスト見積りの見直しをせず,提出済みのコスト見積りが契約に採用された。
  • コスト見積りに含まれていた機能の一部に,L社がコスト見積り提出時点では作業を詳細に分解し切れず,コスト見積りが過少となった作業があった。
  • 詳細に分解されていたにもかかわらず,想定外の不具合発生のリスクが顕在化し,見積りの基準としていた標準的な不具合発生のリスクへの対応を超えるコストが掛かった作業があった。

 次に,今後これらの問題点による超過コストが発生しないようにするため,M課長は本プロジェクトのコスト見積りに際して,N君に次の点を指示した。
  • aを作成し,L社とQ社で見積りの機能や作業の範囲に認識の相違がないようにすること。その後も変更があればメンテナンスして,Q社と合意すること
  • 実装工程に対するコスト見積りは,Q社の予算確保のためのコスト見積りと,契約に採用するためのコスト見積りの2回提出すること
    1. 1回目のコスト見積りは,システム設計の初期の段階で,本プロジェクトに類似したシステム開発の複数のプロジェクトを基に類推法によって実施して,概算値ではあるが,できるだけ早く提出すること
    2. 2回目のコスト見積りは,システム設計の完了後に②積上げ法に加えてファンクションポイント(以下,FPという)法でも実施すること
  • 積上げ法については,次の点について考慮すること
    1. 作業を十分詳細に分解してWBSを完成すること
    2. 標準的なリスクへの対応に基づく通常のケースだけでなく,特定したリスクがいずれも顕在化しない最良のケースと,特定したリスクが全て顕在化する最悪のケースも想定してコスト見積りを作成すること

〔1回目のコスト見積り〕
 これらの指示を基に,N君はまず,Q社の業務要件定義の結果を基にaを作成し,Q社とその内容を確認した。
 次に,1回目のコスト見積りを類推法で実施し,その結果をM課長に報告した。その際,L社が独立する前も含めて実施した複数のプロジェクトのコスト見積りとコスト実績を比較対象にして,概算値を見積もったと説明した。
 しかし,M課長は,"③自分がコスト見積りに対して指示した事項を,適切に実施したという説明がない"とN君に指摘した。
 N君は,M課長の指摘に対して漏れていた説明を追加して,1回目のコスト見積りについてL社内の承認を得た。M課長は,この1回目のコスト見積りをQ社に提出した。

〔2回目のコスト見積り〕
 N君は,システム設計の完了後に,積上げ法とFP法で2回目のコスト見積りを実施した。
  • 積上げ法によるコスト見積り
     N君は,まず作業を,工数が漏れなく見積もれるWBSの最下位のレベルであるbまで分解してWBSを完成させた後,工数を見積もり,これに単価を乗じてコストを算出した。
     次に,この見積もったコストを最頻値とし,これに加えて,最良のケースを想定して見積もった楽観値と,最悪のケースを想定して見積もった悲観値を算出した。楽観値と悲観値の重み付けをそれぞれ1とし,最頻値の重み付けを4としてコストに乗じ,これらを合計した値を6で割って期待値を算出することとした。例えば,最頻値が100千円で,楽観値は最頻値-10%,悲観値は最頻値+100%となった作業のコストの期待値はc千円となる。
     bのコストの期待値を合計して,本プロジェクトの積上げ法によるコスト見積りを作成した。
  • FP法によるコスト見積り
     N君は,FP法によってFPを算出して開発dを見積もり,これを工数に換算し単価を乗じて,コスト見積りを作成した。表1~3は,本プロジェクトにおけるある1機能でのFPの算出例である。表1,表2を基に,表3でFPを算出した。
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 N君は,M課長に積上げ法とFP法によるコスト見積りの差異は許容範囲であることを説明し,積上げ法のコスト見積りを2回目のコスト見積りとして採用することについて,L社内の承認を得た。M課長は,承認された2回目のコスト見積りをQ社に説明し,Q社の合意を得た。その際Q社に,業務要件の仕様変更のリスクを加味し,L社のコスト見積りの総額にfを追加して予算を確定するよう提案した。

設問1

本文中のabfに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
a,b,f に関する解答群
  • EVM
  • 活動
  • コンティンジェンシー予備
  • スコープ規定書
  • スコープクリープ
  • プロジェクト憲章
  • マネジメント予備
  • ワークパッケージ

解答入力欄

  • a:
  • b:
  • f:

解答例・解答の要点

  • a:
  • b:
  • f:

解説

aについて〕
空欄を含む一文を確認すると「aを作成し,L社とQ社で見積りの機能や作業の範囲に認識の相違がないようにすること。」と記述されています。この記述から、空欄には両者間で見積りの機能や作業の範囲に関して認識を揃えることを目的として作成されるものが当てはまることが分かります。プロジェクトの実施範囲=スコープですから、選択肢のうち「スコープ規定書」が入ると判断できます。

スコープ規定書とは、プロジェクトで対応するシステムの機能や作業内容を定義するドキュメントです。前回プロジェクトではQ社とL社との間で、スコープとすべき機能について認識相違があったために、見積りに対するコスト超過が発生していました。そこでM課長は、スコープ規定書によって両社の認識を揃えようとしたことが伺えます。

なおスコープに関連する用語として「スコープクリープ」がありますが、こちらはプロジェクト開始後に、スケジュール・コスト・資源の調整なくプロジェクトのスコープが拡大していく問題のことを示します。

a=エ:スコープ規定書

bについて〕
空欄を含む一文を確認すると「…まず作業を,工数が漏れなく見積もれるWBSの最下位のレベルであるbまで分解してWBSを完成させた後,…」と記述されています。「WBSの最下位レベル」という記述からこの空欄に当てはまる字句は「ワークパッケージ」と判断できます。

ワークパッケージとは、WBSの最下層に並べられる作業単位で、進捗やパフォーマンスの計測や状況をコントロールするのに用いられます。

b=ク:ワークパッケージ

fについて〕
空欄を含む一文を確認すると「その際Q社に,業務要件の仕様変更のリスクを加味し,L社のコスト見積りの総額にfを追加して予算を確定するよう提案した。」と記述されています。本対策は、〔前回プロジェクトの問題とその対応〕にある「想定外の不具合発生のリスクが顕在化し,見積りの基準としていた標準的な不具合発生のリスクへの対応を超えるコストが掛かった作業があった。」ことへの対応となります。

解答の候補としてはコンティンジェンシー予備またはマネジメント予備のいずれかになるでしょう。各予備費の意味と目的は次のとおりです。
コンティンジェンシー予備
プロジェクトリスクマネジメントで特定されている既知のリスクが現実化した場合に備えて確保される予備の時間や資金
→「既知の未知」に備える
マネジメント予備
プロジェクトスコープの範囲外の予期できない作業のために確保される予備の時間や資金
→「未知の未知」に備える
問題前文に「本プロジェクトは現在Q社での業務要件定義が完了し,これからL社でシステム設計に着手するところである。」とあるように、本プロジェクトにおいては業務要件は完了していますから、業務要件が変更された際に発生する作業は本プロジェクトの範囲外となります。プロジェクト範囲外のリスクによってプロジェクトが影響を受けた場合に備える予備費ですから「マネジメント予備」の方が適切であると判断できます。

また両者の違いとして、マネジメント予備を使う際には、プロジェクトスポンサの承認が必要とするのに対して、コンティジェンシ予備はプロジェクトマネージャの裁量で使用することができます。fを追加する際に、プロジェクトスポンサのQ社に提案していることからも「マネジメント予備」が妥当と言えます。

f=キ:マネジメント予備

設問2

〔前回プロジェクトの問題とその対応〕について,(1),(2)に答えよ。
  • 本文中の下線①の理由を,契約形態の特徴を含めて30字以内で述べよ。
  • 本文中の下線②について,積上げ法に加えてもう一つ別の手法で見積りを行う目的を,30字以内で述べよ。

解答入力欄

解答例・解答の要点

    • 請負契約は仕事の完成に対して報酬が支払われるから (24文字)
    • 複数の手法を併用して見積りの精度を高めるため (22文字)

解説

  • 超過コストを要求することができなかった理由を解答します。

    設問の条件に従い契約形態についての記述を確認すると、問題前文に以下の記述があります。
    • L社とQ社は,システム設計と受入れの支援を準委任契約,システム設計完了から導入まで(以下,実装工程という)を請負契約とした。
    • 本プロジェクトのL社とQ社の担当範囲や契約形態は前回プロジェクトと同じである。
    この2点より前回プロジェクトにおいても、L社が担当する実装工程は請負契約となっていたことが分かります。

    請負契約とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する契約です(民法632条)。一般に定額契約と呼ばれるもので、完了に伴うコストや作業工数にかかわらず、定義された作業範囲の完成に対して契約額の報酬が支払われます。この契約形態では、受注側のコスト実績が見積りを超過したとしても、それを報酬額に転嫁することはできません。この請負契約の性質が解答根拠となります。

    ∴請負契約は仕事の完成に対して報酬が支払われるから

  • 複数の手法でコスト見積りを行う理由を解答します。

    コスト見積りについては〔前回プロジェクトの問題とその対応〕に「これに基づいてボトムアップ見積りの手法(以下,積上げ法という)によって実施したコスト見積りを,ほかの手法で見積りを実施する時間がなかったので,そのまま提出した。」と記述されています。その結果として「L社がコスト見積り提出時点では作業を詳細に分解し切れず,コスト見積りが過少となった作業があった。」という問題が生じています。それが(1)のコスト超過の一因となっています。

    2回目の見積りで得られた金額は契約に採用する金額ですので、正確さが求められます。コスト見積手法はそれぞれにメリットとデメリットがあるので、正確さが要求されていて、見積りのための時間が十分にある場面では複数の見積手法を併用することが有効です。前回プロジェクトは積上げ法のみの見積りで失敗しているので、見積りの精度を高めるためにFP法の併用を決定したことが分かります。

    ∴複数の手法を併用して見積りの精度を高めるため

設問3

〔1回目のコスト見積り〕について,本文中の下線③で漏れていた説明の内容を40字以内で答えよ。

解答入力欄

解答例・解答の要点

  • 本プロジェクト類似の複数のシステム開発プロジェクトと比較していること (34文字)

解説

〔1回目のコスト見積り〕に関するM課長の指示は「本プロジェクトに類似したシステム開発の複数のプロジェクトを基に類推法によって実施して,概算値ではあるが,できるだけ早く提出すること」というものです。

一方、N君はM課長に対して「1回目のコスト見積りを類推法で実施し,その結果をM課長に報告した。その際,L社が独立する前も含めて実施した複数のプロジェクトのコスト見積りとコスト実績を比較対象にして,概算値を見積もった」と説明しています。

「類推法」「複数のプロジェクトとの比較」「概算値の見積り」という3点についてはM課長の指示と合致していますが、その複数のプロジェクトが本プロジェクトに類似したシステム開発であったという説明がありません。類推法で見積もる際の基礎となるデータは、現在のプロジェクトと類似した過去のプロジェクトのデータでなければならないため、M課長はN君に問いただしたものと考えられます。

以上より、N君の説明に漏れていた内容は、類推法の比較対象として類似のプロジェクトを使った旨であるとわかります。M課長の指示から抜き出して答えれば「本プロジェクトに類似したシステム開発の複数のプロジェクトを比較対象としていること」が模範解答となります。

∴本プロジェクト類似の複数のシステム開発プロジェクトと比較していること

設問4

〔2回目のコスト見積り〕について,(1)~(3)に答えよ。
  • 本文中のcに入れる適切な数値を答えよ。計算の結果,小数第1位以降に端数が出る場合は,小数第1位を四捨五入せよ。
  • 本文中のdに入れる適切な字句を,2字で答えよ。
  • 表3中のeに入れる適切な数値を答えよ。

解答入力欄

    • c:
    • d:
    • e:

解答例・解答の要点

    • c:115
    • d:規模 (2文字)
    • e:55

解説

  • cについて〕
    最頻値、楽観値、悲観値の3つの値を使ってコストの範囲を見積もる手法を「三点見積り」といいます。

    解答のヒントは本文中の以下の記述です。
    • 最頻値が100千円で,楽観値は最頻値-10%,悲観値は最頻値+100%となった作業のコストの期待値はc千円となる。
    • 楽観値と悲観値の重み付けをそれぞれ1とし,最頻値の重み付けを4としてコストに乗じ,これらを合計した値を6で割って期待値を算出することとした。
    これらの記述を基に、コストの期待値を計算すると、
    • 最頻値 … 100千円
    • 楽観値 … 100千円×(1-0.1)=90千円
    • 悲観値 … 100千円×(1+1)=200千円
    3つの値を重み付けして、

     (100×4+90×1+200×1)/6
    =(400+90+200)/6
    =115(千円)

    したがってcには「115」が当てはまります。

    c=115

  • 空欄を含む一文を確認すると「N君は,FP法によってFPを算出して開発dを見積もり,これを工数に換算し単価を乗じて,コスト見積りを作成した。」と記述されています。

    ファンクションポイント法とは、ソフトウェアの開発規模を測定する手法です。ソフトウェアの機能ごとに、その処理内容の複雑さなどからファンクションポイントという点数を付けていき、システム開発の規模や工数を導き出します。

    よって、正解は「規模」となります。

    なお2文字ですので「工数」という字句も当てはまり得るように思えますが、空欄の後ろの文で「これを工数に換算し単価を乗じて」という記述があるので、「工数」ではなく「規模」が妥当であると判断できます。

    d=規模

  • 表1及び表2に記載されている情報を基に表3の空欄(ILF、EI、EO)を埋めていくことで答えを導きます。

    表3の2行目のILFに該当するのは、表1のD2、D4及びD5です。複雑さ"低"はD2とD4の2つ、複雑さ"中"はD5の1つです。
    表3の3行目のEIに該当するのは、表2のT2及びT4です。複雑さ"中"はT2とT4の2つです。
    表3の4行目のEOに該当するのは、表2のT3です。複雑さ"低"なので1つです。
    pm09_2.gif/image-size:565×218
    後は重みに注意しながら合計値を算出していくだけです。

     ILF=2×4+1×5=13
     EI=2×4=8
     EO=1×7=7

    したがってEIF~EQの合計値の総合計は、

     7+13+8+7+20=55

    以上よりeには「55」が当てはまります。

    e=55
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問9成績

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